元仮面女子の東大アイドル|渋谷区議会議員の橋本ゆきが政治を通して届けたい想い

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渋谷区議会議員
橋本ゆき   はしもとゆきTwitter
1992年12月12日生まれ。三重県津市出身。
2010年、NHK東京児童合唱団を卒団後、同年7月に東大受験生アイドル 桜 雪(さくら ゆき)として芸能界デビュー。その後、「仮面女子」としての活動をスタートし、2018年に卒業。2019年4月に渋谷区議会議員選挙に立候補、初当選を果たし、現在は防災・多様性・行政のIT化・エンターテインメント政策・教育・まちづくり等、多分野に渡る政策提言を行っている。

私たちの生活とは切っても切り離せない政治。皆さんはどのようなイメージをお持ちですか。

新型コロナウイルスの広がりにより、様々なかたちで変化を求められている私たちの社会。そうした変化にも、大きな役割を担っているものが政治になります。

お読みの皆さんのなかには、政治を「遠い存在」だと思われている方もいらっしゃるかもしれません。また、疎外感や不信感を持ち、関わり方もよく分からないと考えることはありませんか。

今回インタビューしたのは、橋本ゆきさん。

東大受験生アイドルや「仮面女子」のメンバーとしてご活躍された後、現在は渋谷区議会議員として活動されています。

『アイドルから政治家への転身。』

ゆきさんのストーリーを読んだ後、もしかすると政治に対する「あなたの距離感」は変化しているかもしれません。

東大卒地下アイドル 桜雪

仮面女子

略歴

–まず、これまでのご経歴と現在の活動内容についてご紹介いただけますでしょうか。

はい、本日はよろしくお願いします!

私は三重県の津市出身で、中学生のときに東京へ来ました。高校は、東京学芸大学附属高校でして2011年に卒業しています。

小学校の頃から合唱を続けており、高校でも合唱団に所属していたのですが、卒業したタイミングで新しい「音楽への道」として、芸能界に行ってみようかと考えはじめ、アイドル事務所の門をたたくことになります。その後、「東大受験生アイドル」としてのデビューが決まりました。

東京大学に合格する以前は、受験生アイドルとしてピンとして活動していました。なので、仮面女子に所属したのは合格後の話です。最初に所属したアイドルグループは、まだ小さいグループだったのですが、大学1年の3月に仮面女子が結成され、私も合流することになります。

仮面女子としては、女性インディーズアーティストとして、史上初のオリコン1位を獲得したり、ワンマンライブを開催したりなど活動を広げていく一方で、私個人としては大学卒業後に政治塾へ通い始め、政治も語れるアイドルとして各テレビ番組のコメンテーターなどを務める経験をしました。

そして、去年の2019年3月末をもって仮面女子を卒業し、同年4月の渋谷区議会議員選挙に初出馬、初当選を果たします。現在は1年目が終わって2年目に入ったところです。

芸能活動をはじめるまで

(口を開ける橋本ゆきさん 幼少期)

ー生い立ちや、アイドルを目指すに至るまでの経緯を教えていただけますか。

小さい時は、ファッションデザイナーやソプラノ歌手になりたいと思っていました。元々アイドル自体そこまで好きだったわけではなく、正直なところあまり興味もありませんでした(笑)

ただ歌うのが本当に好きだったので、事務所に対して「歌が歌いたいです」という話をしていました。

伝えたときは「音楽は聴いてくれる人がいないと成立しない。まずはファンをつけないとやりたい仕事もできない」と言われて。そこで自分のファンになってもらえるよう、アイドル活動をスタートしました。

最初は「下積み」のためにアイドルになった気持ちもあったのですが、グループの活動が本格化していくうち、段々とやりがいや楽しさを見出すようになっていく自分がいて。そのままアイドルとしての芸能活動を続けていきました。

東大受験生アイドル

(東京大学 赤門前)

ー東大受験を決めた経緯について教えてください。

高校生の時、大学の志望校が決まらず、担任の先生に相談したことがありました。そのとき先生から「決まらないなら過去問を見てみなよ。入試ごとに相性があるもんだよ」と言われたんです。

私は当時、大学で何を勉強したいかが明確に決まっていませんでした。なんとなくミーハーな感じで手に取ったのが、東大の入試問題でした。

その時は全然解けず、相性も良くなかったのですが、「こんな問題を解ける人って、相当頭が良い人なんだな!」ということだけはわかったんです(笑)

そして同時に「かっこいい!これ、解けるようになりたい!」と思い、東大受験を決意しました。また、東大だと専攻する学部を3年生から決めることになるので、当時まだ何を勉強したいか決まっていない自分にも合っていると感じました。

最初から東大を受ける学力があるわけではなかったので、模試ではE判定ばかりでした。受かる可能性が低いところからのスタートだったんですね。ただ当時は「東大受験生アイドル」として活動することが決まっていたので、受験ブログの更新は毎回行っていました。

でも他の受験生からしてみれば、「自称アイドルが東大受けるなんて」と思われる方もいて、ネットでの自分に対する批判は少なくありませんでした。

成績は思ように伸びず、それでもブログは書かなきゃいけない状態で、書くと馬鹿にされる状況は、つらかったですしプレッシャーも大きかったですね。一度受験に落ちてしまった時も「ざまあみろ」というようなコメントもありました。匿名掲示板は最盛期で、私も無名でファンも多くはなかったので、ほとんどの人に叩かれた状態でした。もう悔しくて。

ただそれでも、なかにはブログで「頑張ってね」と残してくれる方もいらして、自分が頑張る原動力にもなっていました。そうした方々のお陰で頑張れたところはありましたね。

浪人時代は、これでもかというほど自分の勉強法を見直して、「ここまでやって落ちるなら、いいや」と思えるくらい自信がつくまで勉強しました。合格発表を見に行った時は「どんな結果でも受け入れられる」というスッキリした気持ちだったのをよく覚えています。


仮面女子としての活動

(仮面女子としてのライブ活動)

ー仮面女子としての活動を、詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。

当時はライブ中心の日々で、秋葉原の会場で365日ライブを行っていました。

加入した頃は大学生だったのですが、ライブに出るため4限までに授業を終わらせる必要がありました。1限から4限まで授業を詰め込み、夕方からライブを2公演、そのあと練習をして帰宅したら大学の課題を進める、ほとんど寝れない生活を送っていましたね。井の頭線での通学時間が睡眠時間だったほどです(笑)

ただそうしたなかでも、海外でのライブと「さいたまスーパーアリーナ」のワンマンライブは特に記憶に残っています。

デビューした当時は、すごく広いライブハウスに一列分くらいしかお客さんがいませんでした。その後、365日毎日のようにライブはしましたが、さすがに「海外にファンなんているわけない」と思っていたんです。でも実際に行ってみると、海外でも「仮面女子」や自分の名前を知っていてコールをしてくれる人、振り付けを覚えて踊ってくれる人がいました。

国境を越えて人を喜ばせることができていることに、本当に感動しました。

その頃は体力的にもきつかったですが、社長には「こうやって毎日ライブを続けていれば、いつの間にか1万人の前でライブしているようになっているから」と言い聞かされていました。

最初は「またオーバーなこと言ってるなあ…」とあまり信じてはいませんでしたが、実際に1万人以上のお客さんの前でライブができて「本当に実現したんだ!頑張って良かった」と思いましたね。

渋谷区議会議員 橋本ゆき

政治家を目指した経緯・理由

ーゆきさんは現在、渋谷区の議員として活動されています。政治家を目指されるようになったきっかけを教えていただけますか。

政治に興味を持ち始めたのは、大学を卒業して以降、プロとして発信していくということを考え始めた時です。

コメンテーターのお仕事をする時も、新聞などの情報を鵜呑みにするのではなく、自分で考えたうえで責任のある発言がしたいと考えていました。そうした思いから、政治塾に通い始めたんです。

通い始めた頃は、「アイドルが政治塾に入った」ということでたちまち話題になりました。その頃は「選挙には出られるのですか?」とよく聞かれていたのですが、当時自分が政治家になるつもりは全然なかったんです。アイドルとして政治に関わることで、若い人にもっと政治を身近に感じて欲しいという想いだけでした。

ただ一方で、自分がただ発信するだけでは世の中は変わっていかないんだということも考えていました。

元々、私の周りにはマイノリティと呼ばれる人が多かったんです。例えば、親友がゲイだったり、アイドル仲間の猪狩ちゃんが障害を持つようになったり。そうしたなか、社会にはどうしようもない理由で諦めなきゃいけないことのある人がすごく多いなと思ったんです。

その人にはその人なりの強みがあるし、環境さえあれば強みを発揮できるポテンシャルもある。でも、社会のせいで発揮できないことがあるという「歯がゆさ」がありました。そして、なんとかそうした現状を変えたいという思いが積み重なっていきました。

「いま私が政治をやらなきゃ」と思うに至ったきっかけに、猪狩ちゃんの存在は大きかったです。猪狩ちゃんが事故に遭ってもう歩けないと聞いた時、私は自然に「仮面女子を卒業して、いなくなっちゃうんだ」と思っていました。

でも、猪狩ちゃんはたった数か月で帰ってきて、車椅子に乗りながら踊っていたんです。それを見た時、全身に電気が走るような強い衝撃を受けたのを覚えています。「強すぎる!」と思いました。

自分には、身近な人が大変な時にできることはなかったけど、こんな強い想いをもっている仲間がいる中で、私も挑戦しなきゃという気持ちが芽生え始めました。

その時点で、アイドルは9年目だったのですが、「もう十分やれることはやった。自分も次のステージに進んで人の未来を明るくできるような、アイドルの進化形になりたい!」と思い、政治家になることを決意しました。

ーそうだったのですね!渋谷区での政治活動を決めたことに、何か理由はあったのでしょうか?

直近の選挙が渋谷区で行われる予定だったこと、そして私が住んでいたのが渋谷区だったことが理由になります。

渋谷は人が多く集まる場所なので、影響力のある自治体の一つです。そして各自治体の議員は、数が国会ほど多くはないため、一人としての発信力も大きくなります。渋谷で取り組めることなら、日本中にも広がっていくような影響力を持てるだろうと感じていました。

例えば、渋谷は日本で初めてパートナーシップ条例を出した地域なのですが、そこから日本全国の自治体がパートナーシップ条例について考えるようになりました。

同性婚の是非は現在、国会でも問われ始めています。渋谷区は先陣を切って、これまでの在り方に一石を投じていく役割を担っているのだと思い、「渋谷区の議員になりたい!」と気持ちも強くなっていきました。

当時は25歳で、次の選挙まで待ったら30代になってしまうと気づき、アイドルを卒業後すぐに決意して、半年後の選挙を迎えることになりました。

掲げる政策

(渋谷区議会にて)

ーゆきさんが掲げる政策についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

私は「人は楽しいと思えるところに集まり、そして人が集まるところに価値が生まれる」と考えています。

何にせよ、「楽しいな」と思って人が毎日生きることが大切です。皆さんが安心して楽しみながら挑戦できる環境作りに貢献していきたいです。

そのためには、障害や人種、性別やセクシャリティなど、お互いに認め合ったうえで、それぞれの価値を存分に発揮できるような社会づくりが必要だと思います。

生涯にわたって、多様性を理解したり、女性が自身の身体や健康を理解した上で自分が何をしたいのかを考えられるような教育も広げていきたいです。

また、スタートアップや大手企業、自治体を繋げるようなエコシステム作りや、女性が子供もキャリアも諦めないようなサポートも考えて活動しています。

ー私たちのグループでは、障がい者の就労支援事業の開業支援及びフランチャイズに携わっています。ゆきさんは障害者就労について、どのようにお考えですか?

現在渋谷区では、「ショートタイム JOB」という仕組みを取り入れています。「数時間でもいいからみんなと一緒に働きたい!」という意向に応えるようなプログラムです。

私自身としては、障害をもつ方が「就労のための訓練を受けている間は働くことができない」ということに課題を感じています。私の友人の家族も訓練のサービスを受けているのですが、アルバイトなどで自分の生活を維持しながらプログラムを受けることができない現状があります。

就労移行支援プログラムの幅を広げて選択をできるようにしたり、時間を柔軟に調整できるようにしたり、当事者の人からしっかりとお声を聞いたうえでアプローチしていきたいです。

「こうするべき!」という自分の意見の押しつけをするのではなく、担当部署の職員の方たちとも話し合いながら一番良いやり方を模索しています。


現在の主な活動内容

ー政治家としてのご活動内容について詳しく教えてください。

政治家の仕事は、主に公務と政務の二つに分かれています。

公務は、議会や委員会の出席などですね。私は、総務委員会とオリンピック・パラリンピック対策委員会に所属していて、防災や危機管理、行政改革、経理などを扱って審議するような役割を担っています。どの議員も絶対に行う仕事ですね。

それに対して、政務は自分に裁量がある仕事で、自分で何をどれだけやるかを決めていくことができます。私の場合は、地域の子供テーブルやイベントに参加して子供たちと遊びながら、学校の様子や公園についてヒアリングをすることがあります。

学校の授業見学にも向かいますし、タウンミーティングで地域の人たちや渋谷が好きな人たちと一緒に、政策について話し合うこともあります。日々の発信も大切な仕事の一つです。

ーありがとうございます。現在取り組まれている問題でいいますと、どのようなものがあるのですか?

注力しているものに、「自転車レーン」の問題があります。現在、東京には歩行者の通る道と完全に分離されている自転車レーンはないんです。

歩道の脇に自転車のマークが書いてあって「端を自転車が通る」ということは分かっても、路上駐車が多かったり、なかなか通りづらい実情があります。イメージしづらいかもしれないですが、これはかなり危険な状態なんです。私は自転車は持ってはいますが、ほとんど乗っていません。

自転車レーンの問題は、自転車の推進活動をしている方々がSNSで「渋谷区内のこの道路は危ない」と発信しているのを見て、改めて考えるようになりました。その後は彼らと連携を取りつつ、一緒に「安全な自転車レーンを作ろう」という活動を進めています。

元々なんとなく「危険だなぁ」と感じてはいたのですが、SNSが当事者の方やユーザーの皆さんの声を届けてくれたことで、本当に課題視して解決のため行動するに至りました。

いろいろな方とコミュニケーションを取りながら活動することは、自分ができることの枠も広がるという意味で重要なことだと捉えています。

ー現在、新型コロナウイルスが流行していますよね。議員としての活動はコロナ前後で変わりましたか。

お仕事のほとんどがオンラインでの活動になりました。

もちろんオンラインで開催することが難しいものは、今まで通りです。ただ、これまでは議員同士の打ち合わせは対面での開催が当たり前だったのですが、緊急事態宣言中、初めてオンラインで開かれるようになりました。

人が集まるような地域のイベントがほとんどなくなってしまったので本当に寂しいです。早く日常に戻るよう願うばかりです。

「芸能×政治」|2つの活動を通して見えたもの

アイドル活動

政治活動を通して届けたい想い

ー政治活動を通して、ゆきさんが成し遂げたいことをお聞かせください。

政治って、不信感を持ってしまうことも少なくないものだと思っています。でも、基本的に政治は目的ではなく手段です。

皆さんが政治という手段を使って、最適解を見つけていく、そんな政治を実現していきたいと考えています。

パワーゲームではなく、みんなで話し合い、答えを見つけていくプロセスが必要だと捉えています。お互いを批判し合うのではなく、何が良いのかを一緒に考えられるような、柔らかいものに変えていきたい。そのためには、政治を目的化するのではなく、「社会を良くしたい」と考えている方々と話し合うことが当たり前になって欲しいです。

私は芸能と政治を両方経験して、「そんなにやっていることは変わらない」と思うことがあります。

どちらも応援してくれる人がいないと職業として成り立たない。そして、仕事をしていて「頑張って良かったな」と思えるのは、「誰かに元気をあげられた」と実感できる時です。そうした点で、アイドルとしての活動は、今の政治家としての私の活動と似ているなと感じています。

これから実現していきたいこと

現在、存在する課題のなかには、テクノロジーで解決するものもありますよね。そうしたものは、積極的にテクノロジーの活用を進めていきたいです。

新しいことに挑戦する時、「未知だからダメだ」とか、悪用といった悲観的・否定的な見方も存在します。従って、「とりあえずやってみよう」という社会実験を徐々に作っていきたいです。まずは小さな枠から試してみて、上手くいったら広げていく。そんなポジティブなトライアンドエラーができるような政治を目指しています。

前に進むためには、どうしてもトライアンドエラーは必要ですので、エラーを許してもらえる政治に取り組みたいです。

今は皆さんの政治に対する不信感は強いので、エラーがあるとそこにだけ注目が集まってしまいます。しかし、失敗も許容できる社会でないと、良い方法が見つからないというのは、会社でも同じことですよね。

政治においても、最初から100%成功することをなかなか難しいです。政治への信頼を取り戻しながら、試行錯誤を通して前進していけるよう私も政治に関わっていきます。

社会に向けてのメッセージ

ー最後に、これまでのご経験も踏まえながら、社会に発信していきたいメッセージはありますか。

「政治には人を幸せにする力がある」ということを信じて、政治に参加して欲しいです。

政治は人を苦しめるために存在しているものではなくて、みんながうまく一緒に生きていくために生まれたシステムだと思います。

今一度そこに立ち返れるように、まずは自分もそこに参加してみるということを心に持っていただければ幸いです。

【編集後記】

政治というものに対し、私たちが抱くイメージは多様です。そのなかには、希望や期待はもちろん、不信感や閉塞感も含まれます。「政治には人を幸せにする力がある。」取材の最後に出た橋本さんの言葉は、強いメッセージが感じられました。コロナ禍の現在、橋本さんはオンライン・タウンワークミーティングなどを通じて、市民の方と意見交換する場を設けています。詳細について気になる方はぜひ、橋本さんの公式SNSからチェックしてみてください。

(執筆:小野稀代奈|Twitter / 編集:伊藤弘紀|Twitter)

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