障がい者雇用を戦力に|横浜市立大学 影山教授に聞く障がい者を雇う企業のメリットとは?

横浜市立大学教授
影山摩子弥 かげやままこや
横浜市立大学の教授。
地域の中小企業を支援することや、学生の実践教育を行うことを目的として、横浜市立大学CSRセンター(現 CSR&サステイナビリティセンター)を設立。現在は、CSRにかかわる全般的な相談対応、SDGsの取組み相談対応、障がい者雇用の調査、講演・セミナーも行っている。横浜型地域貢献企業認定制度や宇都宮まちづくり貢献企業認証制度などを設計。

横浜市立大学の影山摩子弥教授。著書である『なぜ障がい者を雇う中小企業が業績を上げ続けるのか』では、教授自身が2年半かけて行った実態調査をもとに、経営戦略としての障がい者雇用や、CSRの効果的な実践方法についてまとめています。

影山教授は、著書の中で、「障がい者が企業の経営を改善する力を持つことは明らか」であり、「障がい者の雇用は、障がい者やその家族にとってだけではなく、企業にとってもプラスになる、WIN-WINの経営戦略となりうる」と言います。

多様性の尊重が重視されるいま、社会貢献と経営効果を両立させるために押さえるべき視点とはどのようなものでしょうか?

CSRとは
CSRとは、Corporate Social Responsibilityの略であり、「企業の社会的責任」を指す。経済・環境・社会など幅広い分野において、重要な利害関係者の期待やニーズに応え、経営の永続を図る経営戦略的観点のこと。

障がい者雇用の現状と課題

障がい者雇用の課題

(横浜市立大学 金沢八景キャンパスにて撮影)

ー現在の障がい者雇用について課題に思われていることを教えてください。

まず、障がい者のキャリアデザインについて課題に思います。

今まで、障がい者の雇用関連のことでは、”リハビリ”という言い方がなされてきました。リハビリというのは、怪我をしてしまったときに、怪我をする前の、正常な状態に戻すことなんですね。

要するに、障がい者雇用におけるリハビリとは、例えば、障がいがあるのが好ましくない状態であるという前提をもとに、本来の状態である健常者に近づけるために訓練するというニュアンスが強いんですね。

そのように捉えると、障がいがあるが故の特徴や、得手不得手が見えてこないんです。それぞれの特徴を押さえつけて、健常者に近づけようとするのは問題なんじゃないかなと考えます。

障がい者の方も、仕事ができるようになってくると、「難しい仕事をしてみたい」「色々なことがしてみたい」と思うようになります。ですが、企業の方が仕事を用意できてなかったら、その企業を辞めてしまうことにも繋がります。なので、キャリア形成が大切なんです。

会社に入るときって、自分はこの会社でどうやって成長していくのか、どのような人間になっていきたいかを考えますよね。会社のためだけじゃなく、仕事をしている自分を軸にしながら考えていくのがキャリアです。それを、障がい者の方にしても、考えていくべきなんじゃないかなと思います。

そうすると、障がい者の個性に合わせた働き方という考え方も出てくると思います。

そして、障がいのある方だと、電車に乗って遠くに通勤することはあまりないんですね。やっぱり地元で仕事を見つけることが多いです。なので、地域が連携して、障がい者のキャリア形成を支えていくという考え方があってもいいと思いますね。

ー障がい者雇用に関する制度に対して課題に思われることはありますか?

はい。実雇用率についてです。現在、30時間以上働かないと、実雇用率で一人分としてカウントされません。でも、精神に障がいのある方は、それより短く働いた方が、継続して仕事をしやすかったりすることが、データで分かっているんですね。

現在、一定の条件下で、精神障害者については、週の労働時間が20~30時間未満の場合、本来は0.5カウントなのを1カウントとしていますが、もっと短時間からを可能にするといいと思います。実雇用率に算入できなくとも、それに準ずるような制度を作ると良いかなと感じます。

あとは、請負型で働いている障がい者の方は、雇用していないですから、実雇用率には入れることができません。なので、請負型施設外就労を法定雇用率に換算するか、法定雇用率ではないが公的な算定制度を作ると良いと思います。

そして、就労支援者側の報酬システムにも課題を感じます。

障がいのある人が、就労移行支援施設の中で働く場合と、外で働く場合の、就労移行支援組織の受け取る報酬は一緒なんですね。でも、外に行った場合、職員の負担は大きいんです。報酬が増えれば、今までは一人でしか支援ができなかったところを、二人でちゃんと支援するということも可能になると思います。

あとは、就労支援側と企業とのコミュニケーションが足りていないなと思うケースも少なくないです。

なぜいま障がい者雇用が大事なのか

━影山教授は障がい者雇用についての書籍を出されていますが、障がい者雇用に関心を持ったきっかけは何ですか?

CSRセンターを作った当時、頭ではCSRとは何か分かっていたんですけど、コンサルをやるとなると、実態を知らないといけないんです。なので、色んな企業に行ってみたり、CSR報告書を取り寄せて読んでみたりして、実態調査を行ったんですね。

その時に見えてきたことがあって…CSRってすごく誤解が多かったんです。

今も誤解している人もいるんですが、企業にとって意味のない慈善活動をやることがCSRだと思っている人が多かったんですね。まずはこの誤解を解かないと、時代についていけない企業になってしまうので、誤解を解こうと考えました。

一番のポイントは、社会課題に応えていくと、実は企業にもメリットがあるというところなんですね。社会貢献は経営にとって意味があるよと伝えていく際に、インパクトがある方がいいなと思ったんです。

ヒアリング等で得た情報で、目についたのが、子育て中の女性の生産性の高さと障がい者が戦力になることや、社内を変えるなど、健常者社員に良い影響があるということなんですね。障がい者については、私も先入観があったので、意外だったんです。そこで、障がい者雇用について研究することを考えました。

障がい者雇用で業績を上げる工夫は

障がい者雇用のメリット

ー障がい者雇用は企業にどのような好影響を与えるのか教えてくださいますか?

障がい者雇用は企業にとって、大きく三つのメリットがあります。

一つ目は、戦力になるという点です。

特に、製造業の中小企業ですと、高卒でも四大卒でも、なかなか人が来てくれなかったりするんですね。障がいの特性によっては、健常者以上の生産性をあげる場合もあります。そうすれば、戦力として働いてもらえる訳ですから、当然業績にも影響があります。

二つ目に、シナジー効果が生まれることです。いわゆる相乗効果というやつですね。障がい者の方がいることで、健常者社員に影響があります。健常者が働きやすくなったり、社内の雰囲気が良くなったりするんです。

例えば、障がいを抱えた方にわかりやすいように、乱雑に置かれていたものを整理すると、健常者にとってもわかりやすいんです。業務内容も、ひとくくりで丸投げされていたものを、順番に仕事ができるように、再設計するんです。健常者社員の労働生産性が上がりますし、人間関係も良くなります。

また、ワークライフバランスを支えることができます。普段は部署のサポートのような仕事をしている方も、健常者社員の方の誰かが育児休暇を取るとなった時に、その仕事に入るということも可能なんですね。実際にこのような企業があります。

さらに、多様性の土壌をつくることができます。障がい者というのは、ものすごく多様性が高いです。ダイバーシティの極致と考えています。まず、鬱と一言で言っても、症状も程度も様々なんですね。人によって全然違うんです。そういう意味で、多様性が高いんですね。

ーその多様性が企業に良い影響を与えることに繋がるんですか?

はい。健常者は、やりたい仕事がでなくても、与えられた仕事をこなしちゃうんですね。これはある意味、多様性が消されるんです。多様性を吸収できる能力をもっているので、対応してしまうんです。

ところが、障がい者の方は、柔軟に対応できるという訳ではないので、企業側が色々配慮しなければならない多様性が出てきてしまうんですね。

すると、企業側が、常に多様性に対応できるようなアンテナを張ってみたり、従業員たちも色々な状況に対応できるようになります。

例えば、LGBTの方や個性が非常に強い人は、”異質な人”と見られる傾向があります。そういった人たちを受け入れやすくなります。これまで会社にいなかった”異質な人”が会社に入ると、すごく刺激になって色んなディスカッションが起きて、イノベーションが起こります。

障がい者雇用によって、ダイバシティの土壌ができて、そういうメリットを享受することができるんですね。

三つ目は、企業の負担が減る点です。企業は、2.2%の法定雇用率を満たしていないと納付金を払わないといけません。この負担が減ります。それから、ちゃんと雇ってると、調整金や特開金(特定求職者雇用開発助成金)のような、助成金や補助金がもらえます。

障がい者を戦力として雇うための配慮と事例

(影山教授のゼミが行われる教室にて撮影)

ー障がいのある方を戦力として雇うためにはどのような工夫が必要ですか?

まず、仕事とのマッチングが大事です。

障がい者の方は、あれもこれもできるわけじゃなくて、できることってすごく狭いんです。ただ、すごく狭いできるところにはまると、健常者並みに仕事をしてくれたり、健常者以上のことをしてくれたりするんですね。

例えば、ある会社で、とても小さな部品を作っているところがあったんです。それを、精神障害を抱えている方が検品していたんですが、「その人がいないとうちの会社は成り立たない」と社長が言っていました。

とても小さな部品なので、健常者の方がぱっぱと見ていくと、必ず見落としがあるんです。見落としがそのまま製品として納品されると、欠損品が顧客のもとに行っちゃうんですね。

その会社で働いてる精神障害の方は、一個の部品をちょっと時間をかけて見るらしいです。一見すると健常者と比べて、処理する能力は劣ります。ですが、不良品を確実に見分けると仰っていました。だから、この精神障害の方は、検品の仕事にとてもマッチングが高いということができます。

そういう意味で、マッチングを考えると良いんですね。実は、これは健常者の人と同じです。合わない仕事をやらせても生産性は高くないですし、ストレスを抱えるだけなので本当は良くないんですが、健常者の方は仕事をこなしてしまうので、あまり会社側は考えないで来てるんですね。

その人がどういった障がいの特性を持った人なのかを把握することが重要です。

岡山の会社に行ったときにも、突然上を向いて寝始めちゃう子がいたんですね。

すると、周りがどうしようって焦るんですよ。その子は特別支援学校から来た子だったんですが、その特別支援学校の先生に聞いたら、「○○くんと言って肩をポンポン叩けばすぐ起きます」と言ったんです。で、その通りにしたら本当に起きて、今までやっていた仕事をまた始めたんですね。

つまり、その子は体力の限界になると寝てしまうんですが、熟睡して体力を回復ので、呼べば復活して仕事を始めることができます。

このような事例も含めて特性を把握して合理的配慮をしていく必要があるんですね。

ー合理的配慮の具体例をもう少し教えてくださいますか?

例えば、人といることが苦手な人に営業の仕事や、チームでの仕事は向いていないです。ですから一人で在庫管理をするように指示された方が、その人はラクなんですね。特性にあった仕事を割り当てるのも合理的配慮です。

人間関係や、職場のレイアウトもそうですね。車いすだったら車いすで動けるようなレイアウトにしてあげることが必要です。

そういうことを把握するために、企業側と障がい者側のコミュニケーションというのはとても大事です。障がい者の方が言いやすい雰囲気を作ることや、社員教育も大事です。

この人はこういう特性を持っているから、こういうことに気をつけてあげると良いよと言ったアドバイスも社員教育に当たります。

障がい者の方に慣れていて、気にせずに接することができるようになることが理想なんですが、すぐにはできないので、会社と、障がい者の方をちゃんとつなげるような間に立つような人が必要になります。

例えば、ブラザーシスター制度というものがあります。新入社員の指導担当の人を一人決めるんですね。一対一の体制で、何かわからなかったら全部この人に聞くようにすると決めちゃうんです。

障がい者の方、特に、知的障害の方は、臨機応変にその辺にいる人を捕まえて、仕事内容を聞いたり、「トイレどこですか」と聞いたりすることが難しいんですね。聞いていいかも分からず、結局聞けずに終わっちゃうんです。

すると、仕事もできないし、質問も出来なくて疎外感を覚えて辞めちゃうんですね。それが、いつでもこの人に聞いてと決めておくと聞けるじゃないですか。だからそこで人間関係を築き、安心して会社に通うことができるようになります。

ー職場での人間関係のデザインも大切なんですね。

そうですね。あとは、会社側と、障がい者を支える支援組織や家族と連携するのも良いと思います。

さっきの、寝ちゃう子の事例も、特別支援学校と会社が連携をちゃんと取っていたので、対処の仕方がすぐにわかったんですね。

あと、家族と連携を取って、企業での様子も家族に伝えて、ちょっと困ったことがあったりしたら、家庭の方で対応してもらうこともあり得たりします。家庭の方で困ったことがあった時に、職場で気を付けたり対応してもらうということも可能になります。

ー障がいのある方に向いている仕事や向いていない仕事はありますか?

一言で言うと、障がい特性に合わない仕事です。障がい者の方はいろんな仕事ができると思います。ただ、障がいの特性に合っていないと難しいと思います。

単純すぎる、逆に複雑すぎる、人と接するのが苦手なのに接しないといけない、孤独がダメなのに倉庫で一人で行うなどはダメですね。

あとは、時間や成果が厳密に決まった仕事や健常者のペースで行う仕事、自分の体調に応じたコントロールが柔軟にできない仕事もちょっと厳しいんじゃないかと思います。

ー障がいのある方自身が仕事を探す際に気を付けたほうがいいことはありますか?

障がい者就業・生活センターやハローワーク、就労支援事業所、精神障害者の支援をしているクリニックなどに相談に乗ってくれる職員の方がいるので、そういった組織と連携していった方が良いと思います。

精神障害の方って、外から見てどのような状況かわかりにくいんですね。一日の中でも状態の変化があるため、自分の障特性を把握するということが求められます。

そして、それを企業に正直に言った方が良いですね。クローズで就職活動をする方もいらっしゃいますが、「自分にはこういう障がい特性があって、障がい者枠で就職したいんです」とはっきり言った方が働きやすいような気がします。

企業側からすると、あらかじめ情報を貰えている状態になるので。なので、障がい特性の把握や、特性の説明方法の把握が必要です。

自己分析をして、なんでこの企業で、なんでこの仕事がやりたいのかを、特性からちゃんと説明できると良いです。

自分の障がい特性はこうで、会社ではこういう仕事や働き方ができるとというマッチングのイメージもできると良いですね。

メッセージ

休職中や求職中の障がい者の方に向けて

━休職していたり、仕事を探していたりする障がい者の方へメッセージはありますか?

休職中の方は、まだ本調子でない可能性があるので、ゆっくり休むと良いと思います。まだ課題を抱えている可能性があるので、あんまり仕事を探しなさいと言わなくても、ゆっくり休めば、だんだん元気になると思いますしね。

仕事の中で精神を病んでしまって休職された方の場合、前の自分の仕事のやり方や、バリバリ働いていたイメージがあるので、それに戻ろうとしてダメになることがあるんですね。

ただ、2回目やってしまうと、精神障害はすごくひどくなるんです。ですから、無理しないでゆっくり休まれた方が良いのかなと思います。

求職中の方は、自分の障がい特性を把握して、それにあった雰囲気の会社を探すと良いと思います。就労支援をしている組織と連携するのもいいと思います。

また、ネームバリューで企業を探さない方がいいです。大企業が障がい者の対応に慣れているとは限らないんですね。中小企業で障がい者の雇用に慣れていたり、手厚く対応したりするところは、続けられる可能性も大きいので、企業規模だけで選ばない方が良いです。

社会に向けて

━最後に、障がい者雇用を行う企業や社会に対してメッセージをお願いします。

障がい者は戦力にもなるし、健常者が働きやすい職場となります。すると、人間関係も良くなり、多様性の土壌も生みます。

倫理観だけでは、「親切な対応」を生むだけで、「できない人たち」「生産性が低い」「邪魔になる」といった善意の偏見を根本的に払拭することはできないと思います。

障がい者の雇用や請負での受け入れは、障がい者のパフォーマンスを享受できることによって、企業にとっても社会にとってもメリットがあります。障がい者雇用によって多様性を育むことで、その多様性を受け入れる土壌を培うことができます。

また、身近で障がい者のパフォーマンスを感じる機会となり、障がい者にとっても偏見が軽減されることになりますし、社会の側にとっても偏見に基づくストレスがなくなります。その結果として、自然な形でインクルーシブな社会になると思っています。

【編集後記】

終始、物腰柔らかに丁寧な対応でインタビューに答えてくださった影山教授。優しい人柄が伝わりました。学生時代はハードロックのバンドをやっていて、地方回りもしていたという意外な一面も知れました。障がいのある人はできることが狭いからこそ多様性が生まれるという話が印象的でした。できないからこそ、工夫が生まれ、ディスカッションが生まれ、新たな考えやイノベーションの機会が生まれる。企業側が個人の能力や対応力に依存せず、環境を整えることで、無限の可能性を享受できるのかもしれません。

(執筆 / 編集:髙野里穂|Twitter )

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