YouTubeチャンネル「ADHDの彼氏とわたし」(YouTube)
せいゆう(Twitter|Instagram) ほのか(Instagram)
Youtuberとしてご活動されているADHDのせいゆうさんと、パートナーのほのかさん。2021年2月から始めているYouTubeチャンネル「ADHDの彼氏とわたし」は、2021年11月現在登録者数が8,260人になる。
ADHDを含む障害に関してまだ社会の中で認知や理解が足りない現状。だからこそ、せいゆうさんとほのかさんはYouTubeで発信することで多くの方にADHDの特性や対処法などを知ってもらい、当事者やパートナーのためになる情報発信をして「勇気を与えたい」と語る。
今回インタビューしたのは、YouTubeチャンネル「ADHDの彼氏とわたし」でADHD当事者とパートナーに向け情報発信をしている当事者のせいゆうさんとパートナーのほのかさんです。
「私たちと同じように悩んでいる方に向けて、ADHDの方やパートナーの方の力になれるように発信していきたい」と語るせいゆうさんとほのかさん。
せいゆうさんのADHDと診断されるまでの経緯やYouTube活動への想いをお二人から伺いました。
ADHD(注意欠陥・多動症)とは
「不注意」「多動性」「衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつ。これら3つの特徴は、同時に全て現れるというわけではなく、「不注意」が目立つ場合や全てを併せ持つ場合など人によってさまざまな形で現れる。具体的な症状としては、「重要な用事でも期限を守れない(不注意)」「そわそわと体を動かす(多動性)」「衝動買いが多い(衝動性)」などが挙げられる。周囲の環境によっては、精神的ストレスから二次障害としてうつ病や適応障害などを引き起こす場合がある。しかし、好きな分野や得意な分野では集中力を維持できたり、ミスも少ないことがある。(参照元|e-ヘルスネット 厚生労働省)
目次
ADHD当事者のせいゆうさん、パートナーのほのかさん
せいゆうさんがADHDの診断を受けるまでの経緯
ーせいゆうさんがADHDの診断を受けるまでの流れを教えていただけますか?
せいゆうさん:僕がADHDと診断されたのは大学4年生の21歳の頃でした。
まず、ADHDを知ったことがきっかけとしてありますね。
大学の先輩がADHDで、その方の話を聞いて初めてADHDの存在を知りました。特性などを聞いたら「もしかしたら僕もかな」と考えましたが、当時は病院に行きませんでした。
それから、出かけた際に交通手段を何度も間違えたり、バイトのシフト時間を何度も間違えてしまった経験があって、日常生活の中でADHDの特性が自分に当てはまると感じる場面が多々あったんですね。
ADHDを知る前は全く自覚していなかったのですが、ADHDを知ってから徐々に自分の中で違和感を感じて自覚してきたと思います。
違和感を感じている中で、これから就職などのタイミングだったので、周りの人に迷惑をかけたくないと思ったのと、診断をすることで自分の強みと弱みを知って対策していきたいと思い診断に至りました!
ーADHDのこと自体を知らないと中々自覚しづらいですよね!せいゆうさん自身の特性はどのようなものがありますか?
せいゆうさん:特性としては、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの症状を併せ持っていて、忘れ物やなくしものが多かったり、衝動的に行動したり、じっとしていられないことなどがあります。
具体的には、時間を間違えてしまったり、家なしで上京するなどと無計画に行動してしまったり、作業中に手遊びや貧乏ゆすりを無意識にしていますね。
また、「聴覚過敏」の症状もあり、大きな音など周りの環境が気になると集中しづらいこともあります。
ただ、逆に過集中してしまうこともあって、周りが見えず時間を忘れて作業に没頭してしまい、話しかけられても気づかなかったりしますね。
ほのかさん:全然私の話聞いてないこともあるよね(笑)。
ADHDだからこそ感じた可能性
ーせいゆうさんはADHDをポジティブに捉えられている印象があるのですが、なぜそのような考え方ができるのでしょうか?
せいゆうさん:理由は2つあって、1つ目は診断前の時点で、ADHDに対してポジティブな印象を持っていたこと、2つ目は子どもの頃から成功体験を積み重ね、自己肯定感が育つ環境で過ごせたことだと感じています!
1つ目の理由ですが、僕は過去に子どもたちのサッカー指導を行なっていました。僕が教えていたクラスに大体、1人、2人くらいは発達障害のある子どもがいたんですね。
僕は、その発達障害のある子どもたちとサッカーをしていく中で、ポテンシャルを感じることがよくありました。
ーどのような部分にポテンシャルを感じられていたのでしょうか?
せいゆうさん:例えば、発達障害のある子どもで、サッカーはそこまで上手ではないし、運動も得意ではない子がいました。だけど、数学は得意で、小学生なのに中学で習うようなことまで知っていたりしたんです。
苦手なことがあっても、好きなことにはすごい集中力を発揮してとことん取り組むことができる、そのようエネルギーを目の当たりにしたことから、ポテンシャルの高さを感じました。
ー好きなことに対する集中力は、やはりずば抜けたものがありますよね。2つ目の理由を詳しく教えてください!
せいゆうさん:2つ目の理由は、子どもの頃から成功体験を積み重ね、自己肯定感が育つ環境で過ごせたことです。
例えば、子どもの頃の話でいうと、僕はテストで100点をとったら100円をご褒美で貰っていたんです。そういう小さな喜びや成功体験の一つひとつが積み重なっていき、当時、勉強も力を入れることができました。
また、学生時代取り組んでいたサッカーでは、足の遅かった自分が全国選抜に選ばれたという成功体験がありました。
僕はリレーで最下位になるぐらい足が遅かったのですが、学生時代に付き合っていた彼女に浮気されたのがきっかけでサッカーに熱中するようになりました。
練習だけでなく、アイスやお菓子を食べずに食事制限を徹底していたり、授業中も暇さえあれば腹筋のトレーニングをしていました。
それぐらいサッカーを頑張っていて、そこまで自分は頑張れるという自信を持つことができましたね。
診断後もポジティブでいられたのは、ほのかちゃんや家族など周囲のサポートや理解もあるのですが、子どもの頃から成功体験を積み重ねて自己肯定感が育つ環境で過ごしていたことで、自分に自信が持てていたことが大きかったと思います!
ー子どもの頃からの小さな成功体験の積み重ねが大切なのですね。
せいゆうさん:はい。そのため僕は、発達障害の子どもたちがポテンシャルをどれだけ発揮できるかは、周りの大人の接し方や関わり方に左右されていくと考えています。
ーなるほど。実際に子どもたちにサッカーを指導していく中で、せいゆうさんが意識されていることはありますか?
せいゆうさん:僕は、具体的な部分を細かく褒めるようにすることを意識をしています!
発達障害を持った中学生のサッカー指導をしていたときの話で、その子は「発達障害だからできない」、「無理だ」という言葉をよく口にしていました。
僕はその子に対して、「発達障害は周りより成長するチャンスがたくさんある。悪いことではない」ということを伝え続けたんですね。そして、サッカーのプレーでうまくいった部分を細かく褒めるように意識しました。
そうすると、その子の中で自己肯定感が徐々に高まったようで、自分から「練習を頑張りたい」と言ってくれるようになったんです。
この時、発達障害があっても接し方を工夫して、自己肯定感をつけることができれば、物事にポジティブに取り組むことができ、その子自身の成長につながると感じました!
ー確かに、発達障害のある子どもの周りにいる大人が接し方を意識していければ、自己肯定感は育まれそうですね。
せいゆうさん:はい。だから僕は、幼少期から、自己肯定感を下げない接し方や社会全体の取り組みが必要だと考えています。
発達障害についてありのままを認められるような、寛容で偏見のない世の中になれば嬉しいですね!
そうすることで、将来的に起業家やアーティストなどのクリエイティブな才能を発揮する人が増えてきて、日本の社会のためにも繋がると思っています。
YouTube活動を始めた経緯
ーYouTubeを始めた経緯を教えていただけますか?
せいゆうさん:Youtubeを始めるにあたり、僕の一番大きい現体験が、親にADHDであるとカミングアウトした時に、泣かれてしまったことです。
僕は結構自分に自信があって、サッカーも勉強もできる方だ、と思っていました。だから、「発達障害がある」という事実だけで泣かれてしまったのがとても悔しかったんですよね。そして、自分のことで親に悲しい思いをさせてしまって申し訳ない気持ちになりました。
親は、突然「発達障害」ということを聞かされて、その時は発達障害に対する情報が少なかったから、将来のことを心配していたんだと思います。
だけど、僕は発達障害を強みだと思っています!
なので「発達障害は悪いことだらけだというネガティブなイメージを変えたい」「発達障害の情報が少ないので、自分から情報発信をしていきたい」「発達障害の子どもを持つ親で、悲しい思いをする人を減らしたい」と考え、Youtubeで発信しようと考えました。
ーほのかさんは、なぜパートナーとして、一緒に発信しようと考えたのでしょうか?
ほのかさん:発達障害のある方のパートナーも苦労や悩むことはたくさんあるんですよね。
パートナーがかかってしまう病気として、カサンドラ症候群というものがあるくらい。
カサンドラ症候群
カサンドラ症候群とは、家族やパートナーなど生活の身近にいる人がアスペルガー症候群(現在の診断名は自閉症スペクトラム障害、以下ASD)であることが原因で、情緒的な相互関係を築くことが難しく、心的ストレスから不安障害や抑うつ状態、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの心身症状が起きている状態を指す言葉。
(参照元|LITALICO仕事ナビ)
その中で、私も一時期、関わり方や接し方で深く悩んでいた時期がありました。
だけど、発達障害があっても、お互いに割り切ってその強みや特性に目を向けたほうが楽しい。
そんなことにも気づき、発達障害当事者の周りの方やパートナーなど、接し方や悩んでいる方のお役に立てたら嬉しいと考え、発信しようと思いました!
せいゆうさん:発達障害の友達や部下、上司を持ち、接し方に悩んでいる方もいると思います。発達障害当事者に関わる人すべてがハッピーになれるような情報発信をしていきたいですね!
発達障害は、「うまくいかないことが多い」「周囲に迷惑をかけてしまう」というイメージを持つ方もいらっしゃると思います。だけど、周囲の環境によっては、天才と呼ばれるくらい強みを発揮できる可能性もあるんですね。
そのため、生まれ持った才能と思って人生を歩んでいってほしいと思っています。
ーほのかさんは、ADHD当事者のせいゆうさんと出会い、発達障害に対する価値観の変化などはありましたか?
ほのかさん:やっぱり、”発達障害”っていう言葉だけを聞くと、当事者だけでなく、周りの人も関わるのに苦労をする・大変だというイメージを持たれる方も多いと思います。
しかし、彼をみていると、発達障害の特性だとしても、いいところがたくさんあります。
その姿を見て、発達障害は、一人ひとりが持っている素敵な個性だと考えることができるようになりました。
Youtubeチャンネル「ADHDの彼氏とわたし」の活動
YouTubeで発信する理由と活動する上でのこだわり
ー最近ではSNSなどの様々なツールがあると思うのですが、その中でYouTubeを選ばれた理由を教えていただけますか?
せいゆうさん:YouTubeが一番わかりやすいと考えたからです!
ADHDとか発達障害についての”本”はたくさんあります。でも、文字だと分かりにくいし、状況が理解しづらいと感じてきました。
文字だけでなく動きがつくと、視覚優位の発達障害の人に対しても、画面の表情を通して想いが伝わりやすくなります。
また、動画の視聴者の方で、「発信すること自体が勇気のいること」だと考えている方もいらっしゃいます。僕たちが発信することで、誰かの勇気になることができ、想いを一番伝えられるのがYouTubeだと思いました。
ーYouTubeは動きがあるからこそ、他のSNSに比べて共感しやすいような気がします。
せいゆうさん:そうですね。ただ、実際に共感を呼ぶためには多くの人に動画を見てもらう必要があります。
自分が当事者目線で考えられるからこそ「視聴者を自分に例えた時にどのような動画が見たくなるか」というのも意識しています。その中でも特に、真面目すぎずに発信することが大事だと思っています。
発達障害に対しても、真面目に正しい話だけをしないといけないわけではないので、それぞれのグラデーションがあっていいと思います。
そのため、少し「クスッ」と笑いながら学べる一つの例としてのチャンネル設計を意識していて、見てくれている方が楽しく見ることができる動画作りを心がけています!
ほのかさん:他にも、動画の中で再現シーンを入れることで、具体的に状況のイメージをしてもらえるよう工夫しています。
ー他に、YouTube活動の中で意識していることはありますか?
せいゆうさん:そうですね。多くの方にわかりやすいようにという部分は意識していますね。
なので、言葉選びなども含めて幅広い年代や状況の方に伝わるよう考えています。
YouTube活動での体験
ーYouTubeをやっていて良かったと感じられることはありましたでしょうか。
せいゆうさん:実は、YouTubeを見てくださっている方から、誕生日プレゼントを送っていただけたりすることがあるんです。
YouTubeをやっていなかったら、 自分が知り合ってこなかった方たちがファンになってくれて、プレゼントが届くというのは、すごく可能性があると感じました。
自分たちの動画を編集したショートビデオを作ってくれたり、誕生日を祝ってくれたり、と応援してくださる方がいることを実感できると、本当に嬉しいですね。
ほのかさん:動画を見てくれて、ファンになって応援してくれたりと、動画を通しての関わりが生まれています。
YouTubeをやっていたからこそできた経験だと思うので、「YouTubeをやっていて良かった」と感じますね。
ー関わりの広がりには可能性を感じますよね!その中でも、印象的だったエピソードはありますか?
せいゆうさん:YouTubeをやっている中で一つ大きな出来事がありました。
僕たちのファンの方が亡くなってしまっていたんです。女子学生さんだったのですが、動画を出すとほとんど毎回、沢山の愛のあるコメントをくれていました。
ですが、急にコメントがこなくなったんですね。その後、ファンの方の妹さんからコメントがあり、亡くなったお話をお伺いしました。
毎回コメントや応援をしていただいていたので、 すごく悲しかったですし、受け入れるのに時間がかかりました。
生前も、僕たちに向けて「これからも頑張ってください。私の支えになってました。」と話してくれていたというコメントを妹さんからいただきました。
ほのかさん:私たちはとても胸を打たれて、「活動を通して勇気を与え続けたい」「ファンの想いをより大事にしていきたい」とこれまで以上に頑張ろうと感じ、ファンの方の愛を感じることができた大きな出来事でした。
メッセージ
今後のYouTube活動に対しての想い
ーYouTubeにおける目標を教えてください。
ほのかさん:今年中にチャンネル登録者数1万達成を今は目標にしています。ただ、あと2ヶ月で今年が終わるので、これからさらに頑張っていきたいと思っています。
せいゆうさん:僕は、YouTube以外でも活動の場を広げていきたいと思っています。様々な場所で発信していくことで、さらに多くのファンや当事者の方々と出会い、勇気を届けることができると思います。
また、YouTube活動を活かして将来的には、動画編集を教える場も作りたいと考えています。
ADHDの当事者である僕が教えることで、同じ悩みを抱えた仲間として伝えられることがあると思っています。動画編集を学んだことがきっかけで自分の可能性が広がる方が増えたら嬉しいと思います。
社会に向けてのメッセージ
ー最後に視聴者さんに向けてメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
せいゆうさん:「ADHDの強み」という動画を出しているのですが、僕はADHDが強みだと考えています。
ですが、その動画には「ADHDの強みがあるということを知らなかった」とコメントされていた方がたくさんいらっしゃいました。そこで初めて、強みを知らず「障害」があることでネガティブに捉えられている方が沢山いることを知り、僕自身と社会の認識のギャップを強く感じました。
そのように、ネガティブにとらえている方に、ADHDは環境次第で強みにすることができるので自信を持って考えてほしいと特に伝えたいです。
ありのままの自分に自信を持ち、物事に取り組めるようになることで成功する可能性があると思っています。
ほのかさん:当事者も悩みが多いと思うのですが、関わるパートナーも悩むことは沢山あるので、あまり悩みすぎないでほしいと思いますね。
悩んだり考えたりしすぎないで、個性として受け入れてもらいたいです。
ー改めて、どのような方々に動画を届けたいとお考えでしょうか。
せいゆうさん:ADHDなどの発達障害に関わる方々に届いてほしいですね。当事者はもちろんですが、職場の人やパートナーなど、ADHDの人が身近にいる人に特に見てもらいたいですね。
僕は、親へのカミングアウトがYouTubeを始めたきっかけだったこともあるので、ADHDのお子さんがいらっしゃる保護者の方にも届けたいと考えています。
発達障害は、周りの理解がすごく大事で、その理解度によってポテンシャルが潰されるか、生かされるかが変わってきます。そのため、当事者はもちろん、関わる方々全てに届けたいです。
[編集後記]
今回インタビューしたのは、ADHD当事者としてYouTubeで発信されているせいゆうさんとパートナーのほのかさん。
せいゆうさんのお話の中でも、ADHDが強みになるというお話が特に印象的でした。
例えば、「一つのことに集中すると周りが見えなくなってしまう」という特性をネガティブに考えるのではなく、「一つのことをやると決めると、とことん熱中できる」という強みとして環境次第で活かすことができる。
物事の捉え方をネガティブではなく、ポジティブに考えることは、ADHDなどの発達障害以外のことにも繋がるる考え方なのではないでしょうか。
編集 富田理子(Twitter)