「勇気の先に、Fortiaがあった」|障害者eスポーツプレイヤーの想い

みなさんは「障害者eスポーツ」という言葉を知っていますか?

大胆かつ繊細な動きをするゲームキャラを、まるで自分の手足のように操りながら勝利を目指すeスポーツ。障害のある人とは無縁の世界だと思っている方も多いかもしれません。

ですが今、障害があっても、その人なりの工夫と「好き」という気持ちで、eスポーツを楽しんでいる人が増えてきています。

さらに、ルーツをはじめとする就労移行支援事業所が、eスポーツプレイヤーを育成するためのカリキュラムを次々とスタートさせています。

「障害があっても、eスポーツを楽しめる」そんな気持ちを社会に広めるために活動している2人のプレイヤーに、今回はお話を聞きました。


いぐぴー
Fortia From ePARAに所属している盲目のゲーマー。地域・年齢・性別・障害の有無を問わず、eスポーツでみんなが輝ける社会を目指し、仲間たちと奮闘中。ほかにも作曲やライター活動など、活躍の幅はとどまるところを知らない。(Twitter

ひだりぃ
先天性の脳性麻痺で左の上下肢が上手く動かせないが、努力と工夫によって健常者とも渡り合うeスポーツプレイヤー。フォートナイトとポケモンが好き。YouTubeでも動画を更新中(Twitter

勇気の一歩で飛び込んだ「ひとりひとりが輝く場所」

バリアフリープロジェクトチーム「Fortia」のロゴマーク。ラテン語で「勇気・力」を表す「Fortia」と、大きな手で地球全体を優しく包み込む様子を表している。

ー本日はいぐぴーさん、ひだりぃさんのお二人に、eスポーツとのかかわりといった部分などについてお話を伺いたいと思います。

よろしくお願いします!

ーお二人が所属されている「Fortia(フォルティア)」とは、いったいどのようなチームなんでしょうか?

いぐぴー:Fortiaというのは、「バリアフリープロジェクトチーム」というチームの名前です。

eスポーツのチームとして活動しているんですけど、普通のチームによくある「勝利を目指す」というコンセプトではなくって、「障害があってもいろいろなことにチャレンジできる」というメッセージを伝えるために活動をしているのが特徴ですね。

ひだりぃ:社会には、精神や身体と本当にいろいろな障害をもつ方がいますよね。そんな方々の「ひとりひとりが輝ける場所」として存在することを目的にしているんです。

ー「ひとりひとりが輝ける場所」素敵ですね!お二人は、その中で特にどのような活動をされているんでしょうか?

いぐぴー:Fortiaにも、視覚障害のある方のeスポーツをテーマにした「Blind(ブラインド) Fortia」というものと、FPS(※1)をテーマにした「FPS Fortia」、「Fighting Fortia」の3種類があるんです。私は主にBlind Fortiaの方で活動していますね。

ひだりぃ:僕は2021年の9月ごろに所属して、今は「Blind Fortia」で活動しています。

FPS
ゲームジャンルの一つ。1人称視点で行うアクションシューティングゲームのこと。ゲーム内の世界を好きなように動くことができるのが特徴

ーそれぞれのチームで活動なさっているんですね。ところで、Fortiaと出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

いぐぴー:私は物心ついたころからゲームが好きで(笑)。音に興味をもって「何かやってみたいな」って思ったんですよね。それでポケモンとか、格闘ゲームとかをやっていたんです。

あるとき「視覚障害の方を集めたeスポーツの座談会」というのに参加する機会があって、そこでFortiaの運営団体であるePARA(イーパラ)の方とお話をしたのがきっかけですね。

そもそもその座談会に出たのも、「eスポーツってことはゲームができるってことだよね!好きなことができるイベントってことだよね!!」みたいな軽い気持ちだったんですけどね(笑)。

ーすごくストレートですね(笑)。ひだりぃさんはいかがでしょうか?

ひだりぃ:僕は「リハビリの一環」として小さいころからゲームをしていましたね。両手を動かすからリハビリにいいんじゃないかって、母が買ってきてくれたのが始まりで。

あるとき「自分と同じように障害があってもゲームをしている人がいるんじゃないか」ということを思って調べてみると、ePARAがヒットして。

そこでお話をいろいろして…といった経緯ですね。

ーお二人とも、ものすごくアクティブですね!eスポーツの世界に飛び込むには、やはりそのアクティブさは大切なんですか?

いぐぴー:今は「障害がある人がeスポーツプレイヤーになる」方法はまだしっかりと確立されてないですよね。

だから「自分から積極的にチャレンジしたり、話を聞きに行く」というのがすごく大事なのかなと思います!

私はお伝えした通り「ゲームができる!」という気持ちがきっかけだったんですけど(笑)、SNSなどでそういう活動をしている人を見つけたら声をかけてみるなど、チャレンジの気持ちが大切なんじゃないかなと思いますね。

ひだりぃ:そうですね、僕は今SNSでゲームのことに関して発信をしているんですけど、たまに連絡をいただくことがあります。

そこから情報交換だったりePARAの見学だったりにつながることもあるので、「話を聞きに一歩踏み出す」というのはとても大事なことなんじゃないかなと思いますね。

いぐぴー:積極性が一番ですね!

「障害があるからこそ」のeスポーツの魅力

「Blind Fortia」のロゴマーク

ーお二人は、普段ゲームをどのようにプレイしているんですか?

いぐぴー:私は全盲で、音の情報だけが頼りです。例えば仲間とオンラインのゲームをするなら、ボイスチャットを使うようにしてますね。

より具体的には、仲間に移動する方向を指示してもらったり、近くにいる仲間にちょっと音を出してもらって、その音を頼りに行動したりというような方法でプレイしています。

ひだりぃ:僕は脳性まひで、左の上肢と下肢が動かしにくいんですね。だから、ゲームをするにもコントローラーの左側を操作することが難しいんです。

なので僕は「背面にボタンがあるコントローラー」を使っています。それぞれのボタンは役割を入れ替えることができるので、左側にあるボタンの役割をうまく入れ替えながらプレイしています。

ー動画で見ると、よりすごさが伝わりますね…。ここまで工夫できるようになるまでにはどのくらい努力したんでしょうか?

ひだりぃ:あんまり詳しくは覚えてないですね(笑)。ただ僕は「うまくなりたい」って思うとすごく集中するタイプなので、1日中取り組んでた時期もありました。

ー1日中!そこまでのめりこめるeスポーツの魅力って、いったいどういうところなんでしょうか?

ひだりぃ:やはり「工夫次第で健常者とも対等に戦える」というところだと思います。工夫して工夫して、上手な相手に勝てたとき、仲間から褒められると嬉しいし、モチベーションになるんですよね(笑)

いぐぴー:本当にそれは思います(笑)。私は映像が見られず、感覚だけでゲームをプレイするんです。その中で相手を倒しきれたときに周りから驚かれるのが嬉しくて

ー「仲間から褒められる」や「驚かれる」というのは確かにうれしいですね!

いぐぴー:私のやっているフォートナイトというゲームは、「敵を倒しきった」ときや「遠くの敵を見つけた」ときに仲間に報告をすることが大事なんです。

その報告の時に「ひとり倒した!」というのを自分で言えた時、その喜びを仲間みんなで共有できたときはものすごい快感ですね!

あと、私が思うのは「どこからでも挑戦できる」ということですかね…。ネット環境と機材さえあれば、いつでもどこからでもチャレンジができる。そんなところに魅力を感じてます!

負けて落ち込むこともある。そんなとき、自分とどう向き合うか

ー健常者の方とも渡り合ったり、相手を倒して褒められたりするのってとても快感ですよね!逆に、ゲームをやっていて落ち込むことはあるんでしょうか?

ひだりぃ:もちろん、負けてしまうと落ち込むしモチベーションは下がります。これは障害のあるなし関係ないですね(笑)。
調子が悪い時だってあります。そんなとき「自分とどう付き合っていくか、乗り越えていくか」は難しいですよね。

ー負けて落ち込んだときや調子が出ないとき、どうやって乗り越えているんでしょう?

いぐぴー:私は「考え方の角度を変えてみる」というのをしていますね。

ー角度、ですか?

いぐぴー:私は特に落ち込みやすいタイプなんですが、例えば「このレベルまで上げたら配信でよく聞いていた音楽がもうすぐ手に入るから、その音楽を聴くためにもう少し頑張ろう」とか、全然ゲーム関係ないところをモチベーションにしていることもあります。

落ち込んだ時は、ゲームそのものから少し離れてみるのもありなのかもしれませんね。

ーなるほど、ゲームの中の別の要素を目的にしてみると、いい気分転換になるのかもしれませんね

ひだりぃ:僕は負けてしまうと、YouTubeで上手な人の動画を見てモチベーションを上げていますね。

「もっとうまくなりたいし、頑張ってみようかな」という感じで「もう一回!」という気持ちになるんです。

あとは、1時間とか長くやるんじゃなく、「今日は一試合だけ」とか、目標を普段より低めに設定しながらモチベーションを戻しています。

ー調子の出ない自分に合わせて、目標などを調整していくのが大事なんですね

ひだりぃ:そうですね。そういうのって、障害との付き合い方でも似ている気がしていて、「つらいときや調子が出ないときにどう乗り越えていくか」っていうのは考え続けなきゃいけない部分だと思うんです。

それをゲームを通して学べているというのは、いいところだなと思いますし、周りの人のそんな様子を見て、自分も刺激になっています。

今、eスポーツプレイヤーを目指すあなたへ


ー今、就労移行支援事業所のルーツさんやmanabyさんが、eスポーツの団体と提携して「就労支援としてeスポーツプレイヤーを育成しようとしている」現状がありますが、なにか思うところはあるでしょうか?

いぐぴー:障害があってもeスポーツプレイヤーになるために、そのような施設に行って訓練をすることも一つとは思います。

ただまだ確立されてはいないと思うので、もっとシステムが充実してくれば広がるんじゃないかなとは思います。

ひだりぃ:さっきいぐぴーさんも言ってくれましたけど、eスポーツの魅力は「どこからでも参加できること」。きっと将来環境などが整えば、もっといろいろな場所から就労支援を受けられるようになるんじゃないかなと思いますね。

いぐぴー:まだ自分の中では「対面で地元の施設まで行って、訓練を受ける」というイメージなんですよね。オンラインや在宅での支援があれば、もっといろいろな人が障害者eスポーツに関われるようになるんじゃないかなと思います。

ーもっともっと世間に就労移行支援が広がれば、それだけeスポーツプレイヤーを仕事にしたい人がチャレンジする機会も増えますよね。

いぐぴー:そうですね。現状だと、eスポーツプレイヤーだけで「安定した仕事」につながるかどうかは分からないですけど、やっぱり「好きなこと」であるならば、とにかく積極的に挑戦していくしかないんじゃないかなと思います。

自分が「挑戦しよう」って思える気持ちがある限りは、どんどん伸びていくものだと思うので。

ひだりぃ:僕は「継続力」がとても大事だなと思っています。

好きなことで暮らして食べていくのって、あこがれだけどそう簡単なことじゃない。苦しい時もあります。でも、続けていくことでいつか実を結ぶことになると思うので、「継続」というのはとても大事なのかな、と。

就労移行支援×eスポーツ
ここ最近、就労移行支援事業所とeスポーツの距離がぐっと縮まっている現状があります。「仕事の選択肢」としてeスポーツプレイヤーを考えてみたいという方は、ぜひこちらの記事もチェックしてみてくださいね

ーありがとうございます。最後に、「これからeスポーツプレイヤーを目指す、障害のある方・読者」に向けて、改めてメッセージをお願いします!

ひだりぃ:こういった記事やSNSを見て、自分から「興味あるんですけど」って一歩を踏み出す勇気。それがとても大事だと思います。そういう気持ちを忘れないでほしいですね。

あとは、とにかく継続。好きなこと、熱くなれることを継続していけば、いろいろな未来が開けてくると信じてます。

いぐぴー:自分のことをネガティブに決めつけないでほしいな、と思います。

私は家族から「このゲームは画面を見ないといけないから無理だよ」と言われて諦め続けてきました。でも、そのころを思い出して「こんな気持ちになるのは嫌だ、絶対にやってやるんだ」という気持ちでチャレンジし続けた結果、今があります。

とにかく一歩、ちょっとでいいから何かチャレンジをしてみるというのがとても大事だと思いますね。

障害を受け入れて、その中でも挑戦をしていく。勝敗だけじゃなく、私たちの「できないことができるようになっていく」過程をぜひ見ていってほしいなと思います。


【編集後記】
とにかく一歩踏み出してみること、チャレンジの大切さを楽しそうにお話しするお二人が印象的でした。
好きという気持ちと一歩踏み出す勇気があれば、この先の未来は全く違うものになるのかもしれないという可能性を感じた時間でした。
いぐぴーさん、ひだりぃさん、ありがとうございました!


いぐぴーさん、ひだりぃさんのお二人の活躍は、自身の技術の向上だけにとどまりません。

最近では、2021年の10月に行われた東京・国分寺主催のオンラインフォートナイト大会にアンバサダーとして参加するなど、ますます活躍の幅を広げています。

そんなお二人や。お二人が所属するFortiaについて、もっと知りたいという方はぜひこちらの記事をチェックしてみてくださいね。
最新の活動情報は公式Twitterをチェック!

また、この記事を通して「就労移行支援でeスポーツを学びたい!」と思った方は、ぜひこちらの記事も読んでみてくださいね。
【eスポーツ×就労移行】eスポーツによる新しい障害者雇用の可能性 (編集|長峰知広)

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