株式会社LOGZ / LOGZGROUP株式会社 COO
尾辻奈実 おつじなみ (Twitter)
1990年生まれ、青山学院大学出身。
大学卒業後は日本生命保険相互会社に勤め営業を経験。退職しフリーランスをした後2015年に株式会社LOGZの創業メンバーとして取締役に就任。自らがいじめに合った経験や、実母がうつ病となった経験から、「居場所」の重要性を感じ、就労移行支援事業を始める。 現在は1歳の子どもを育てながら、株式会社LOGZとLOGZGROUP株式会社で取締役として働いている。
株式会社LOGZは、「就労移行支援事業所ルーツ」を運営しています。
今回は、COOの尾辻奈美さんにインタビューをしました。
「ルーツ」への想いや「生きづらさ」、またこれからのビジョンについてお話を伺いました。
障害の有無にかかわらず、生きづらさを抱えている人にはぜひ読んでもらいたいです。
※こちらの記事は、Wantedlyでのインタビュー記事を元に再度編集し、掲載しています。
目次
就労移行支援事業所ルーツとは
–では早速ですが、「ルーツ」という場所について教えてください!
弊社の行う「ルーツ」という事業は、生きづらさをかかえる人が自分らしく輝くための成長コミュニティです。障害福祉サービスの中の、就労移行支援という事業なのですが、耳慣れない言葉ですよね。笑
社会の中で生きづらさを感じる方々が輝いて仕事をしていけるように、自分を磨くコミュニティだとイメージしてもらうといいかもしれません。「障害者を支援する」と言ったほうがわかりやすいのかもしれませんが、個人的にはその言葉での表現をあまり使わないようにしています。
「障害者を支援する」という言葉を使わない理由
–自分を磨くコミュニティ!確かに「障害者を支援する」という言葉は直接的でわかりやすい気がしますが、使わないのはなにか理由があるのですか?
1つ目の理由は、私達の掲げる事業ミッションが「The Borderless World.〜あらゆる線引きをなくす〜」だからです。
世の中のあらゆる線引をなくして、もっとワクワク生きていく人を増やしたいという想いがつまった言葉です。ここで言う「線引き」は、障害者と健常者だけではなく、男と女、日本と外国、子どもと大人などワクワクできない、何かを隔てているものを指します。
今行っている事業で言うと障害者と健常者という線引になりますが、そもそも「障害」とは何かを行うのを妨げる存在のことを指すので、人間そのもの特性を指すのではなく周囲の環境から生まれるものを指します。
例えば、今この世界は電気もあって明るくて目が見える人のほうが多いから、目の見えない方を「障害者」と呼んでいます。ですが全世界で停電が起きてかつ世界中に昼が訪れなくなった真っ暗な世界では、目の見えないことが普通であり、むしろ目が見えない中で歩くスキルのある方に、私は手取り足取り助けてもらわないと歩くことはできないでしょう。
ですから、障害者だからスキルが低いということもないですし、障害者はいい人で健常者は悪い人なわけでもありません。性格も、能力も、苦手なことも、障害の有無にかかわらず個人によって違うものだからです。もちろん配慮は必要ですが、障害者だからではなく、電車で自分が座ってて妊婦さんが乗ってきたら席をゆずるのと同じ話かなと思っています。
なので、「障害者を支援する」というのはなんとなく違和感を感じるのであまり使わないようにしています。
–なるほど!確かに真っ暗な世界だったら、私も全く動けなくなると思います。この話もっと広まってほしい。笑
そうなんですよ。私もこの仕事をしていく中で教えてもらったことなのですが、これは身体障害者に限った話ではないです。
ちょっと話はそれますが、絵本作家のヨシタケシンスケさんの『みえるとかみえないとか』という絵本は多くの人に読んでもらいたいです!
「普通とはなにか」ということについて非常に考えさせられる内容になっています。ルーツでは全事業所にこの絵本を置いています。笑
–読んでみます!!話は戻りますが、他にも「障害者を支援する」と表現しない理由があるのでしょうか?
そうですね。2つ目の理由は「障害者支援」というと、サポートする人が「障害者手帳を所持する人」に限られるイメージを与えるからです。
「ルーツ」を利用できる人がなかなか「ルーツ」や他の就労移行にたどり着かないことがあります。悩みを抱えていても、居場所を見つけられずに一人になってしまう方が多いと感じているので「障害者」というくくりではない表現を見つけたいなと常々思っています。
もちろん手帳をお持ちの方もいますが、私達のコミュニティは「障害者だから」ではなく「生きづらさを感じ、悩んでいる」人のためにあります。
障害者手帳をもらっていなくても、うつ状態で休職や離職をした方や自分でも仕事中のミスが多くてどうしたらいいかわからず悩んでいる方、人とのコミュニケーションが苦手でスキルはあるのに会社でうまく立ち振る舞えない人。そんな方たちが自分の持つ能力(才能)を発揮して自分らしく社会で輝くための準備をするための場所が、私達のコミュニティです。
ルーツというコミュニティ
–確かに悩みがあってもメンタルクリニックには入りづらいだろうなと思うことがあります。具体的にルーツはどのようなことをするコミュニティなのですか?
本当は居場所があるのに「入りづらい」「問い合わせしづらい」といった一歩踏み出すハードルを低くしたり、そもそもそんな風に思わないコミュニティづくりを心がけています。
また、自分で学んでできるようになる力を大事にしています。
学校でも塾でもいいので勉強の場を思い出してほしいのですが、私達の受けてきた教育はどちらかと言うと受動的で「教えてもらう」ということに慣れる傾向があります。
しかし社会に出た途端に「自分で学ぶ」という能力が問われ、自分の能動的な動きが評価されていきます。
「支援」という言葉は「助けてあげる」というニュアンスが感じ取れると思います。
しかし、最終的に自分の人生を決め自分の人生を輝かせられるのは自分だけです。だからこそ自分のために自分を高めようと頑張る人のために、私達ができるアドバイスがあると思っています。
頑張る人と並走して自分らしく輝く人を増やしていくことが、ルーツというコミュニティのすべきことです。なので「答えを教える」のではなく、「答えにたどり着く方法を教える」ということを意識しています。
社会の価値観を変える「ルーツ」クルーの仕事
仕事内容
–クルーの方々は、具体的にどんなことを教えているのでしょうか?
障害者雇用において、就職はゴールではありません。
実際に、ルーツのような場所を利用せず就職したり障害をクローズ(開示せず)に就職して定着の支援を受けられないと、半年以内でかなりの方が離職してしまうというデータがあります
だからこそ、ルーツをコミュニティと捉えて就職をゴールではなくスタートとして捉え、自分らしく働き続けられることが目標にして共有しています。
ですから、本人のことを考えて必要な指導をして、切磋琢磨し合える場所づくりがクルーのお仕事です。「教えてあげる」のではなく、自分を磨くユーザーに、「目標に向かうためのアドバイス」をします。
具体的には、Webサイト制作やプログラミング、デザインなどのクリエイティブスキルなどのスキル学習サポートから、基本的なパソコンスキルなどの就労に必要な基本的なスキルの訓練も行います。
他にも健康管理やコミュニケーションスキル、ビジネスマナー、就活サポート、キャリアのアドバイスなど本人が自分らしく働くためのアドバイスを行います。
大事にしてもらっているのは、クルー自身の様々な経験を活かして型にはまった形ではなく、本人のために自分の言葉で伝えてもらうことです。
また特に必要なのが、自分の特性を相手に伝えるためのアドバイスです。みなさんも就職活動の時に自己分析をしたことがあると思うのですが、障害者雇用では特にこれが重要です。
自分の特性を相手に伝えるためのアドバイス
–それはどうしてなのですか?
例えば発達障害の方の中には、言葉がストレートに出てきてしまう人たちがいます。
会社の中で言葉をストレートに発してしまったり場違いなことを言ってしまうと、周囲の方に影響を与えたり仕事がスムーズに進まなかったりして本人もどんどん仕事がしづらくなってしまいます。
しかしそれは本人に悪気があって言ったわけではなく、自分の発する言葉が人に与える影響をイメージできなかったり、暗黙の了解を理解できないという障害特性のために起こっていたりします。
もし前もって「私は発達障害で、暗黙の了解がわからなかったり言葉が衝動的に出て意図せず人に嫌な思いをさせてしまう場合があります。
気をつけてはいるのですがそう言ったことがあればはっきり指摘してくださると、次から気をつけることができます。」と言われていたら「あ、なるほど、指摘していいのか!」となり、あらぬ誤解を生まないかもしれません。
また発達障害の方は、曖昧な言葉や遠回りな表現だと理解できないこともあります。なので、逆にしっかりと「これはしないでほしい。」「これはしてほしい」と伝えてもらった方が嬉しいこともあるんです。これは当事者の方もその周りの方も楽しく働き続けるためにとても重要なポイントだと思っています。
社会の価値観を変えていく
–なんだか「障害」の見方も変わってきました、、!
嬉しいです!!私達の仕事は、社会のそういった価値観を変えていくことだと思っています。
社会と学校では求められてることが全然違うのにきちんと自分の特性との付き合い方をアドバイスしてくれたり、コミュニーケーションを学べる場ってあまりないと思うんです。ましてや自分の得意や不得意に対して向き合うところも、あんまりない気がしていて。
「障害者」ではなく「◯◯さん」として注目される社会であってほしいし、そのための場所を作りたいと思っています。
人の人生が変わる瞬間
ユーザーについて
–実際に「ルーツ」にはどんなユーザーさんがいるんですか?
色々な方がいますが、ルーツが始まってすぐの頃に入ってきてくれたユーザーさんがいたんですね。その方は最初ほとんど何も話さないし、表情もあんまり変わらない方でした。
でも何に対しても真面目で、優しくて努力できる人でした。
なんとなく自分のハマるものが見つかっていなかったり、打ちとけ方が掴めてないのかなって思ってまずはめちゃめちゃ話しかけることから始めて、そしたらいつの間にかコミュニティで一番笑顔が多い人気者になっていました。
その方はWordやExcelといった勉強から初めて、資格も取得しましたがなんとなくしっくりきてなくて。そんな中でルーツの特徴の一つであるHTMLやCSS、プログラミング言語に触れるようになって、少しずつ顔つきが変わっていきました。
今まで「勉強が面白い」とかって聞いたことがなかったのですが「プログラミング面白いです。」と今まで以上にのめり込んでいました。その後、特性をオープンにしての受け入れ先も決まり、今もそちらの会社で働かれています。
ルーツに来た時は笑いもしないし目も合わなかったのに、満面の笑みで卒業して行った時はこの仕事は人の人生をこんなにワクワクするものに変えられるのだなと改めて感じました。
–すごい!人の人生の大切なポイントで一緒に頑張る仕事なんですね。そんな風に変わっていく姿を見られたらやりがいを感じますよね。
ほんとうに!
就職して卒業していくユーザーさんとはその後の就職の定着支援も行うのですが、仕事やプライベートを楽しんでいる方を見ていると、ルーツというコミュニティの存在意義をとても感じます。
採用面接に来ていただいた方にも説明をするのですが、クルーの仕事は「障害者を支援する」というよりキャリアアドバイサーとイメージしてもらうようにしています。もちろん、障害特性を知った上での特徴的なサポートもありますが、それは障害の有無ではなく一人の人への対応だと考えています。
やりがいを感じるとき
–特にやりがいを感じるのはどんなときですか?
先程の話のようにユーザーさんのポジティブな変化が見られると本当にうれしくて、クルーの中でも喜びを分かち合っていることが多いです。笑
それは就職のような大きな結果から、日頃の小さな変化まで様々です。
例えばルーツに来た時には「今までだって長く続いたことは無いし、ルーツだってすぐ辞めると思う」と面と向かって言っていた方がいました。
悪気があるのではなく、思ったことがそのまま口に出ているだけなのですが本人も自分の言葉や行動がどう人に伝わっているのかがわからないので、傷つけているかもしれないけれど理解できずに悩んでいました。
それが最近になって誰に言われたわけでもなく、自分から「誰かのために手伝う」という行動が見られるようになったんです!見ていてとても感動したのを覚えています。
誰かを気づかえるようになったり自分のためじゃなく誰かのために自ら行動できるということは、会社で働いていく時にとても大切なことだと思います。成長していくユーザーさんと触れ合うことで、物の見方や考え方も視野が広がるのも私がこの仕事を好きな理由の一つでもあります。
–というと??
これは線引をなくす話でもあるのですが、人って無意識的に自分と相手の考えを同一化してしまうことがあると思っていて。それはとても危険だと感じています。
究極的に相手の気持ちは完璧にわかることはありません。でも重要なのは、相手は自分と違うということを認識することだと思っています。
これは障害の有無に関係なく言える話で「自分の特性は〜だから、〜は苦手。それは相手もわかってて当然。」と思うと、相手に伝えることを疎かにしてしまいます。
「伝えないと伝わらない」ということがわかっていれば、「伝えなかればいけない」と思うので、自分を伝えることを怠りません。その一つ一つが、きっと少しずつ人の価値観を変えていくと考えています。
ルーツが目指す場所
ワクワクと人生を輝かせるために
–濃い話が聞けました…!最後にお伺いしたいのですがルーツというコミュニティが目指すのはどんな場所なのでしょうか?
ルーツという名前の由来は木の根や物事の根源という意味のrootsからとっています。
成長したり上に大きく伸びるためには、誰の目にも触れない地中にしっかりと根を張ることが必要です。
それと同じように、これからワクワクと人生を輝かせるために、努力して根を張るコミュニティ。それがルーツです。
ルーツ自体も進化を続けるコミュニティなので、個性や才能を生かして輝くために「ルーツに行きたい」と思うような一つのブランドを目指しています。
現状に満足せず、日々進化し続けるコミュニティでありたいと思っています。
【編集後記】
就労移行支援事業所ルーツで働くクルーは、障害者を支援するのではなく、応援するキャリアアドバイザーであるということが心に響きました。
ルーツの空間は、一つのコミュニティとして、人生をワクワクさせるスタート地点になっています。
障害の有無にかかわらず、個人として輝ける社会づくりに貢献できる素敵なお仕事だなと思いました。この記事で、障害は社会が作っているかもしれないという新たな視点が見えてきたのではないでしょうか?
(編集:佐々木和奏|Twitter)