男性、女性、LGBTQ、障害者…TENGAを通して『誰もが』性を楽しめる自由な社会へ

株式会社TENGA 広報チーム
本井はる   もといはるTwitter
1991年静岡県生まれ。お茶の水女子大学卒業。
中部地方の新聞社にて3年半勤務し、記者時代は医療・教育やジェンダーに関する記事を多く執筆。タブー視されているからこそ、多くの人が悩む事柄になってしまっている性の分野について、深く掘り下げて伝えたいと思い、2019年1月に株式会社TENGAへ入社。主に女性向けブランド「iroha」、性の健康をサポートする「TENGAヘルスケア」の広報を担当している。

『TENGA』と聞くと、皆さんはどのようなイメージを思い浮かべますか。

私の場合は、赤色がトレードマークの男性向けセクシャルアイテムでした。

今回インタビューしたのは、元新聞記者という経歴を持つ、株式会社TENGA広報の本井はるさん。

『性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく』というビジョンを掲げるTENGAが、どのような活動をされているのか、お伺いしてきました。

最初は漠然と聞いていた「誰もが」という言葉。

インタビューを通して、性に対して誠実に向き合ってきたTENGAが、この言葉に抱く想いを少しずつ知ることができました。

株式会社TENGAとは

–まずTENGAさんについてお伺いできますか?

はい、まず最初に私たち株式会社TENGAは「セクシャルアイテム」を開発・製造・販売するメーカーになります。

企業理念としては『世界中の人々の性生活を豊かにし、人を幸せにする』ことを掲げており、性に関する悩み等をもっとオープンに、誰もが打ち明けられるような社会を目指しています。

私たちの商品は現在、世界69の国と地域で販売され、累計出荷数は約8000万個以上です。

TENGA専用のショップはもちろん、ドラッグストアやバラエティショップでも購入できるので、TENGAを使用したことがない方でも目にされている方は多いかもしれません。

TENGAという言葉の意味は、『整っていて上品に美しいさま』をあらわす『典雅』に由来しています。私たちは日々、そういったプロダクトを目指して開発を重ねています。

TENGA認知度調査
(※2018年9月時点)

TENGA設立の経緯

–国内だけでなく世界にもTENGAは展開されているのですね。TENGAはどのような経緯からスタートした会社なのでしょうか。

TENGAの創業者である松本光一は、元々車の整備士でした。

12年ほど勤務した後、経営難から中古車販売会社に移ったのですが、モノづくりへの情熱が忘れられず、資金を貯めて脱サラすることになります。

脱サラした当初は、まだアダルトグッズを作ろうと思っていませんでした。

ただ家電量販店やホームセンター、百円ショップなどを渡り歩き、日本製の商品を研究していた頃、偶然入ったアダルトグッズコーナーで、松本は大きな違和感を覚えたそうです。

本来マスターベーション(自慰行為)は、人間の根本的な欲求であり誰もが持つ自然な現象なのに、当時販売されていた商品の多くは「特殊で卑猥なもの」として表現されていました。また、メーカーもブランドも不明で、製造に使われている素材もわからないという状態だったんです。

そこで「世の中にはない、一般の製品として通用するアイテムを作ろう」と2005年に創業しました。

障害者と性
(TENGA本社で取材させて頂きました。)

TENGAの女性ブランド

TENGAときくと、男性向けアイテムを製造している会社というイメージが強い方もいるかもしれません。

ですが実は、私たちの会社の男女比率は男性が約56%、女性が約44%になります。

女性向けのアイテムは、女性自身が「これなら使いたい」と思えるようなものを目指し、開発から販売までを女性スタッフが行っています。

–そうだったのですか。女性向けの商品について、もう少しお話をお伺いしてもよろしいですか?

はい、女性向けブランドは大きく2種類あります。

1つはiroha(「イロハ」)、もう1つはiroha INTIMATE CARE(「イロハ インティメートケア」)です。

iroha [イロハ]
「女性らしくを、新しく。」をコンセプトに、女性向けセルフプレジャーアイテムを展開。2013年3月3日スタート。詳細はこちら

iroha INTIMATE CARE [イロハ インティメート ケア]
デリケートゾーン用ソープといった女性向けセルフケア用品を展開するirohaの姉妹ブランド。2017年3月3日スタート。詳細はこちら

女性の性に関する話は、男性の場合と同様、あるいはそれ以上に、まじめに向き合って相談できる場が少ないのではないでしょうか。

性=エロと変換して話を終わらせてしまうのではなく、表通りでも議論できるように製品開発やPRにはこだわっています。

例えば、女性向けのアイテムでは「セルフプレジャー」という言葉を使用しているのですが、これは男性でいうマスターベーションのことを指しています。

意味としては同じものを意味しているのですが、マスターベーションはどちらかというと男性のイメージがあるかと思います。

irohaはセルフプレジャーを「セルフケア」の一貫として、「ごく自然なことであり、自分自身を慈しむための大切な行為である」という思いで、この言葉を使っています。女性でも日常の会話で話し合えるような雰囲気づくりをしたいと考えています。

女性の性欲に対する偏見やタブー視はまだまだ存在するので、TENGAグループとして、製品を通してこれらの課題に向き合っていきます。

iroha
(「和モダン」がテーマのiroha。)

ちなみにTENGA製品は使い切りから繰り返し使えるもの、カップル向けのものからドリンクやアパレルまで幅広く展開しています。

安いものは500円以下で購入できるので、ぜひ気になるものを手に取ってみて下さい。

(ご購入はこちら)

TENGAヘルスケアについて

設立の目的

–これまで株式会社TENGAとしての取り組みをお伺いしてきました。次に株式会社TENGAヘルスケアについてお話いただけますか。

株式会社TENGAヘルスケアは、『性の悩みや問題のない社会』を目指すために設立された会社になります。

株式会社TENGAは今、性を楽しんでいる方々がもっと楽しめるよう事業を展開しているのに対し、株式会社TENGAヘルスケアは、いま性を楽しめていない人が性を楽しめるようになるために事業を行っている会社です。

私たちは、性の健康に関する状態について、「楽しめる」「少し不安がある」「医療の力が必要」の3つに大別されると考えています。

既に楽しめている方であれば、株式会社TENGAがサービスを提供し、医療的なケアが必要であれば専門の病院でカバーできますよね。

ただ、真ん中の「少し不安がある」という方々は、他の2つとはちがったサポートが必要で、TENGAヘルスケアではそのような方々を対象に商品の開発や製造を行っています。

例えば、なかなか子供ができなかったり、自慰はできるけど膣内だと射精ができなかったりする問題って、どこで相談すれば良いのか判断がむずかしい場合があります。

TENGAヘルスケアでは、男性の妊活をサポートする製品を提供したり、正しい性教育を発信していくことで、社会や個々人の性の諸問題を解決しようと活動しているんです。

男性の妊活
(精子の動きをスマホで確認できる拡大鏡:写真右)

自身に性の問題があったとしても気軽に病院に行ける人はあまり多くありません。そこで、誰にも相談できない問題をTENGAヘルスケアでカバーしようと。

中高生向け性教育サイト「セイシル」

性教育
(「セイシル」サイトページより)

–なるほど。性教育についてはどのようなご活動をされているのですか。

私たちが提供しているサービスの1つに「セイシル」というメディアがあります。

中高生が抱く素朴な性の疑問や悩みについて、専門家が回答していく性教育サイトです。

セイシルの専門家には、泌尿器科医や産婦人科医、臨床心理士や皮膚科医、助産師、LGBT団体の代表等がいらっしゃるので、それぞれの知見・立場からお答えしています。

TENGAグループは性に関する製品を皆さまに提供しているからこそ、日頃からユーザーの皆さまにお問い合わせいただくことが少なくありませんでした。

性に関する誤った知識は、時に自分や他者を傷つけてしまうことがあります。

TENGAヘルスケアの事業を通して性にまつわる不安が解消され、文字通り「誰もが」健康や充足感を維持できるよう製品やサポートを提供しています。

障害者の性とTENGAの取り組み

–性の悩みは障害をお持ちの方も抱えている場合がありますよね。TENGAヘルスケアさんではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

障害者の方の性については、これまであまり語られることがなかったり、認知も十分ではないという実情がありました。

当事者とその関係者以外の人たちが身近に考えるきっかけも少なく、性介助を行っている方々がそのお話を共有するという機会も多くありませんでした。

ただ、当事者からのお声はTENGAグループの方にも届いていて私たちも何とかできないかと考えていたんですね。

TENGAでは身体障害のある方に向けて「カフ(自助具)」を提供しています。

障害者と性
(黒い被り物がカフ。)

TENGA用のカフは2007年、身体障害者をサポートしているNPO法人ノアールさん、作業療法士の方と共同開発して作られました。

障害のある方の中には自分の手でペニスを握れない人もいます。健常者の中には、障害者はセックスをしなくていいと思っている人もいますが、それは大間違いです。三大欲求の一つである性欲は誰もが持つ必要不可欠な欲求、つまり『セックスするな、オナニーするな』と言うことは『食べるな、寝るな』と同じくらい辛いことなんです。

TENGA研究会『TENGA論』(2011)、第7章 熱意と願い より一部抜粋

2017年には、「NPO法人自立支援センターむく」さんと女性向けのirohaに対応したカフを開発しています。

–ありがとうございます。株式会社TENGAは、いろいろな方々と協力してサービスやアイテムを開発しているんですね!

社会に向けてのメッセージ

障がい者と性

–それでは最後に、社会に向けてTENGAとしてのメッセージをお願いできますか。

性にまつわる仕事をしたり、性についての話をすると、偏見のまなざしを向けられてしまうことも多いと思います。

私たちは「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく。」というビジョンを掲げていますが、それは裸で歩き回ったり、大声で性の話をしたりするという意味ではありません。

性についてオープンにしたくない人も当然いらっしゃるので、その方を尊重しつつ、一方で大切な欲求である「性」を肯定し、性にまつわることを話すときに精神的な安全性が保たれる社会であることが重要だと思っています。

エロいという側面だけでなく、当たり前の欲求の一つとして、もっとフラットに安心して語り合えるといいですよね。

そういった社会をものづくりからサポートしていけたらと考えています。

【編集後記】
株式会社TENGAのオフィスを訪れたとき、最初に驚いたのはオフィスの雰囲気です。エントランスから本当にオシャレで、いわゆる卑猥な印象は全く感じませんでした。
「性を表通りに」という言葉から伺えるように、株式会社TENGAでは特定のイメージから解放された、誰もが性と向き合える社会に向けて、様々な取り組みを行っています。「性をもっと肯定的に語れるようになったら」取材させて頂いた本井さんからも、その想いを伺うことができ、大変貴重な取材となりました。

(編集:伊藤弘紀|Twitter)

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