「頼っていい」病児保育・障害児保育で安心を届ける|認定NPO法人フローレンス

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岩井純一 いわい じゅんいち (Twitter)
宮城県出身。人を繋げる場作り・選択肢作りファウンダー。
学生時代は国際協力を行う。現在は本職であるフローレンス以外にもマギーズ東京やKAIGO LEADERS、DariaMe保健室、aeruオンラインサロン、NPOコミュニティ運営など幅広く活動している。

病児保育や障害児保育を知っていますか。名前を聞けば想像がつくけれど、正直知らなかったという方も多いのではないでしょうか。

「子どもが熱を出して会社を休んだら職を失った」

「子どもに医療的ケアが必要で待機児童にすらなれなかった」

「つきっきりで子どもを見なくてはいけないから働きたくても働けない」

そんな子育てに関する課題を解決するのは、認定NPO法人フローレンス(以下「フローレンス」)。フローレンスの訪問型病児保育がモデルになった漫画「37.5℃の涙」(小学館『Cheese!』)はTBSでドラマ化もされています。

今回Puenteでは、フローレンスのなんでも屋である岩井純一さんにインタビューしました。病児保育・障害児保育とはどのようなものか、フローレンスの設立経緯、NPOの課題や社会への思い、そして大学生まで国際協力活動をしていた岩井さんが、なぜ国内の子どもの課題に興味を持ったのかに迫ります。

フローレンスの病児保育
子どもが病気になったときの預け先が無い「病児保育問題」を解決するため、日本初の訪問型・共済型病児保育を事業化。当日朝8時までの予約に100%対応し、自宅に研修を積んだ保育スタッフが訪問、マンツーマンの保育を提供している。これまでの保育実績は累計80,000件を超える

(参照元|認定NPO法人フローレンス)

フローレンスの障害児保育
障害のある子どもの受け入れ先が極度に不足している「障害児保育問題」を解決し、障害の有無に関わらずすべての子どもが保育を受けられる社会、保護者が働くことを選択できる社会の実現を目指している。2014年に日本で初めて医療的ケア児に保育と療育を提供する保育園「障害児保育園ヘレン」を開園。翌年からは利用者の自宅に訪問しマンツーマンで保育を提供する「障害児訪問保育アニー」をスタート。

(参照元|認定NPO法人フローレンス)

病児保育・障害児保育とは

ーー自己紹介をお願いします。

岩井純一と申します。現在はフローレンスを本職にしていて、広報として情報発信や記事のチェック、新しいプロジェクトのPR、その他にも外部連携をしたりとなんでも屋のように活動しています。

(岩井さんと同居人|本人提供)

ーーフローレンスはどのような活動を行っているのでしょうか。

フローレンスは「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」の実現を目指す社会課題解決集団です。親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決するために、常識や固定概念にとらわれない新たな価値を創造しています。

現在フローレンスでは病児保育問題、待機児童問題、障害児保育・支援問題、孤育て問題、赤ちゃん虐待死問題、子どもの貧困問題など、社会課題に紐づいた事業にどんどん取り組んでいます。

(フローレンスの事業内容|認定NPO法人フローレンス)

病児保育の現状と課題

ーー今回はフローレンスの事業の中でも病児保育と障害児保育を中心にお話を伺います。まず病児保育について、これまでの活動を通して感じた課題はありますか。

フローレンスが訪問型病児保育事業を始めた15年ほど前、子どもが熱を出した時の預け先はほとんどありませんでした。

しかし子どもが風邪をひいたり熱を出すのは当たり前のことです。フローレンスではこの「病児保育問題」を解決するために、日本初の訪問型・共済型の病児保育サービスを展開し、現在までに累計80,000件以上のお預かりを実施しています(2020年4月現在)。

現在は病児保育サービスが増加し、また企業の働き方改革で在宅勤務や時短勤務もできるようになったため、病児保育問題の状況は少しずつ良くなっていると感じます。

ですが、病児保育は人がいないとサービスを届けられないんです。なので持続可能な病児保育のモデルをフローレンスがつくり、全国の各事業者にどんどん真似してほしいと思っています。


(フローレンスの病児保育|フローレンスHP)

 

障害児保育の現状と課題

ーー次に障害児保育の課題はどのようなところだと考えていますか。

医療的なケアが必要な子どもは全国で約2万人居ると言われます。ですが医療的なケアは看護師や専門の研修を受けたスタッフでないと対応ができません。そのため、まだまだサービスを届けられていないのが現状なんです。

例えば口からご飯を食べられない子どもの場合は、胃や腸などにチューブで栄養をあげたり、痰を吸引する必要がある子どもの場合は、気管が詰まると命の危険があるため安心はできません。

医療的ケア児を育てるある親御さんは、フローレンスの障害児保育を利用して「子どもとの距離ができて、逆に子どもとちゃんと向き合えるようになった」と言っていました。離れた時間に「元気にしてるかな?」と子どものことを考えたり、子どもが家に帰ってきて「楽しかった?」と聞くのが楽しいと。

本質的なことですし、だからこそ障害児保育は必要なサービスだと思いました。

また医療的ケア児には医療費がかかります。ですが親御さんは子どもから目が離せないので働くのが難しい。実際、障害のある子どもの親は常用雇用率が平均5%なんです。ですがフローレンスの障害児保育を利用する親御さんは、希望するすべての方が就労しています。サービスや支援など、環境が整えば就労にも繋がるんですよね。

医療的ケア児とは
医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、
たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと。歩ける医療的ケア児から寝た
きりの重症心身障害児までいる。

(参照元|厚生労働省)


(フローレンスの障害児保育|認定NPO法人フローレンス)

ーー障害児保育はニーズも多く親子が笑顔になれるサービスだけどまだまだ数は少ないんですね。岩井さんは実際に保育現場を見ていらっしゃいますが、どのような印象を受けましたか。

リアクションが返ってくるから仕事やプライベートで頑張れたという経験がある人は多いと思います。ですが医療的ケア児は、言葉を発することが難しかったり表情の変化が読み取りづらく、リアクションが見えにくい場合が多いです。

人によってはその中でコミュニケーションを取っていくのは難しいと思います。でもフローレンスの先生は、少しの変化に目を向けて、1人1人に合った保育をしています。しかも先生自身が楽しそうなんですよね。保育士と看護師が一緒の現場で「この子のために何ができるか」と向き合って考えているのは、本当にすごいなと思っています。

それから「できないからやらせない」ということはしないんですよね。

例えば、医療的ケアが必要で口からご飯を食べられない子どもに、口からご飯を食べさせないのは簡単です。でも子どもって、他の子どもが口からご飯を食べているのを見ていたら「自分も口で食べたい」と思って頑張ろうとするんです。先生たちはそういった子どもの頑張りに寄り添っています。

そういうことを繰り返して、できなかったことができるようになったことで、待機児童にすらなれなかった29人の子どもたちががフローレンスを経て認可の保育園に転園したんです(2020年3月現在)

ーーすごい…!

フローレンスの先生たちはこういうんです。

「私たちは先生じゃないんです。先生は子どもたちなんです。私たちはいつも子どもたちから学ばせてもらっているし、子ども達がやりたいことを私たちは一緒にやらせてもらっているだけなんです。」

「自分が何とかしてあげよう」と思うことってどうしても多いじゃないですか。それが医療的ケアが必要な子どもだとなおさらです。でも本当に子どものことを考えて向き合っていると、大人が制限するのではなくて「この子には何ができるのか」と子ども中心で考えるんです。

「プロだな、すごいな」といつも思います。


(本人提供)

フローレンスとの出会い

ーー続いて岩井さんについてお伺いします。岩井さんは元々国際協力活動を行っていましたが、興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。

小中学生の時、私はいわゆる「社会的弱者」と言われる立場にいて、あまり学校に行っていませんでした。夢も希望もなく、そのまま中卒で終わると思っていたのですが、担任の先生や自分のことを信じてくれる人のおかげで戻ってくることができたんです。

何とか高校に入ることができて、自分がやりたいことも見えてきました。恩返しではないけれど、これからは自分にできる事を全力でしていきたいと思っていたんです。

そう考えているときに、途上国や紛争国の子どもたちの映像を見ました。飢餓状態なのにお腹が膨らんでいたり、ガリガリに痩せている子どもたちを見て衝撃を受けました。僕より年下の子どもたちがこのような状況で生きているということを知らなかったんです。

「ありえない、なんでそうなるんだろう」と思ってすぐに「NGO 国際協力」で検索しました。ヒットしたピースウィンズ・ジャパンさんに「お会いさせてください」と電話し、当時住んでいた新潟から夜行バスで東京まで行って話を聞かせてもらったのが始めだったと思います。

その後、国際協力の専門家のつてで海外に行かせてもらい「もっと知りたいし、自分の目で見て自分ができることを増やしていきたい」と思って日本大学の国際協力学科に入ることを決めました。

 

ーー国際協力活動を行っていた岩井さんがなぜ国内の子どもの問題に取り組むようになったのでしょうか。

就職活動を始めたときも、やはり国際機関やNGOなどの仕事を見ていましたが、経験やノウハウを積んでから入った方ができる事が増えると思いました。それで最初は教育コンサルの会社に入り、人との関係構築や組織マネジメントを学んで、国際協力に活かしていこうと思っていたんです。

でも世の中で起きていることに目を向けると、子どもの貧困や虐待、待機児童など様々な問題が日本にもあることに気が付きました。自分の国でたくさんの問題があるのに、それを知らなかったことに衝撃を受けたのを覚えています。

さらに日本は先進国なので、海外からの支援が入りにくいんです。また私も知らなかったように、問題が見えにくい。なので「気が付いた自分が支援しなかったら、誰がやるんだろう」「知ったからには放っておくことはできない」と思いました。

それからは本職の仕事をしながら、日本の子どもに関する問題に取り組んでいるNPOにボランティアやプロボノとして関わっています。フローレンスに入ったのは約3年半前です。社会課題解決を本職にしたいと思っていた時に、代表の駒崎がよく言う例えを聞いたのがきっかけです。

「子どもが川に流されていたら下流で子どもを救い上げる人は絶対必要。でもそれだけじゃなくて、そもそも子どもを川に流している人達をなくさないと課題はなくならない。だから僕は上流で子どもを川に流す人たちをなくしたいんだ。」

これを聞いた時「この人の下でやりたい」と思いました。何でも、言うのは簡単です。でも駒崎は何が課題で、どうしたら解決できるかを考えて実行するんです。いつも本気で向き合って行動していく。

また、社会課題を解決するために必要な事のひとつは、法律や制度などの環境が整備されることだと思っています。フローレンスはそこをやっていて、実際に制度ができたこともあるのは強みです。社会課題解決に本気で取り組める組織だと思ったので、私はフローレンスに入ることを決めました。


(本人提供)

 

ーー正直、私はNPOを本職にすることには少し不安を感じてしまいます。岩井さんはどうでしたか?

本当にないんですよね。そもそもあまり迷ったり悩むことがないんです。

基本的に「考えた末にやらないで後悔するよりは、やって後悔したほうがいい」と思っています。入ってみて違うと思ったら、選択肢は他にいくらでもありますから。やってみたら見えてくること、出来ることが沢山あると思っています。

ただ、前職はメディアの仕事をしていたので「いきなりNPOに転職って頭おかしいだろ」「お前ボランティアしに行くのか?」など周りの人からはいろいろな意見を言われました。それでも日本は環境がある程度整っているので、頑張っていけば何とか生きていけるだろうと考えていました。

 

無関心という社会課題

ーー様々な活動をしてきて、岩井さんが現在社会の課題だと感じていることは何でしょうか。

人は無意識に壁や枠を作ってしまうと感じています。その壁は「自分には興味がない」と思った物事を自分の内側に入れないもので、なので興味がないものに対して無関心・無理解になりがちだと思います。

例えば国際協力をしている友達に、フローレンスの話をしてもほとんど誰も知らないんです。フローレンスは日本ではそれなりに大きなNPOとなりましたが、違う分野で活動している人は子育てに関する社会課題解決の活動をあまり知らないんですよね。

これが世の中の現状なんだと思います。興味関心のない情報は入ってきても流れやすいですよね。でも誰もが当事者になる可能性があるし、これ以上の分断は生みたくない。なので、まず知ってもらう機会を作るのが大切だと実感しました。

これに関しては、NPOやソーシャルセクターによる情報発信がまだまだ足りていない面もあると思います。情報発信に使う時間がない場合もあれば「情報発信より他にやるべきことがある」「自分たちがやるべき事業をやっていればそれでいい」という意見もあります。

自分たちだけではできない事もたくさんあるし、いろいろな人を巻き込んでいくからこそできる事もたくさんあるので、どうにか変えていきたいと思って活動を続けています。


(本人提供)

今後やりたいことや目指す未来

ーーありがとうございます。無関心がある現状からこういう社会になってほしいという想いや、そのためにしていきたい活動があったら教えてください。

1人1人の可能性や選択肢を生み出す機会、世の中全体の仕組みや雰囲気、誰もが挑戦していけるような機会や繋がりを作っていきたいと思っています。

何がしたいのかが明確にある人もいれば、「何かしたいけど何をしたらいいのかわからない」「普段は仕事をしているけど満たされない」など、いろいろな想いを持っている人がいると思います。その人たちがNPOやソーシャルセクターとつながる機会があることが理想ですが、そうでなくてもいいと私は思っています。

その人たちが何かをするきっかけや、自分がやりたいと思える繋がりを誰かが作れればその人は自己実現できて、お互いにとって良いきっかけになると思うんです。

そうやってきっかけや繋がりを作るために、まずは私が色々な人と繋がります。人と組織をつなげ、それが大きなプラットフォームになっていけば、必要なところに必要な人が行き、みんなが生き生きと働けるんじゃないかと考えています。そのための行動をしていきたいです。

メッセージ

ーー最後に、メッセージをお願いします!

病児保育や障害児保育の利用を検討している方に向けて

まずは見てほしいし、知ってほしいと思います。例えばフローレンスの病児保育に登録することで安心を得られたり、「何かあったら頼ろう」と思えるだけで気持ちは全然違ってくると思います。

「今は子育てに困っているから病児保育や障害児保育を利用して、それが落ち着いたら今度は自分が提供する側になりたい」というように支援する・されることは状況や状態によって変わってくるものです。

「今は大変だから頼る、これが落ち着いたら何かできることをしよう」と考えたら楽になることもあると思います。なのでサービスや支援をもっと気軽に利用してください。誰もがが頼って、頼られる。それは当たり前のことだと思うので。

 

社会課題を解決したい人に向けて

もっと気楽にできたらいいですよね。「自分にできるかな」「関われるかな」と思っているなら、まずは関わってみてみたり、行動を起こしてみてください。

例えば妊婦さんが苦しそうにしていたり、白杖を持ち上げている人がいて「あれって何なんだろう」と思ったり、日常生活で疑問に感じることってあると思います。そういう違和感や疑問を大事にして、行動してほしいです。行動することで、見えること、変わることがありますから。

入り口は何でもいい。直接NPOに話を聞きに行ったり、ソーシャルビジネスをやっている企業に行ったり、イベントやボランティアで関わったりと機会はいろいろありますので、できること・やりたいことをどんどんやってください。

ただ、無理はしなくていいです。社会課題解決をする人はどうしても頑張りすぎちゃう人が多いので、自分にできることを1個ずつやれればいいと思います。

【編集後記】
今回取材したのは認定NPO法人フローレンスの岩井純一さん。
岩井さんのTwitterには素敵なお人柄があふれ出ていますので、是非チェックしてくださいね!
「自分には関係ない、興味がないと思った物事に対しては徹底的に無関心・無理解になりがち」というのは本当に大事な視点だと感じました。私が障害者やセクシャルマイノリティと言われる人たちがいると知り関心を持ったのは恥ずかしながら大学生になってからです。それまでもきっと耳に入ったことはあったはずですが興味関心がないから流れていたんだと思います。「様々な社会の障害と向き合う方々のストーリーを1つのPuenteというメディアで発信することで興味関心を持ってくれたら」と思っていますがメディアの在り方を改めて見つめ直す貴重な取材になりました。

(編集:佐藤奈摘|Twitter)

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