失禁体験装置でポジティブな尿失禁体験を|失禁研究会

失禁研究会代表(TwitterHP
亀岡嵩幸 かめおか たかゆき
電気通信大学博士後期課程1年。人間の感覚メカニズムを触覚という観点から解明し,得られた知見から感覚提示装置の開発を行う。電脳空間で学会を開催するバーチャル学会を主催するほか、尿失禁感覚を再現、提示する装置の開発を行う「失禁研究会」を運営。

あなたは最近、いつおもらししましたか?

尿失禁は高齢者虐待の原因にもつながっていると言われ、一見ネガティブで、タブー視されやすい話題です。しかし日本泌尿器科学会によると、40歳以上の女性の4割以上が尿失禁を経験しており、悩んでいる人は多いのです。

そんな尿失禁への理解を進めるため、エンターテインメントの力を使いポジティブな尿失禁体験を提供するのが「失禁研究会」。

今回Puenteでは、尿失禁の感覚を再現する「失禁体験装置」の開発をされている亀岡嵩幸さんにお話を伺いました。

失禁体験装置の開発経緯や仕組みから実用的なアイデア、VR研究における失禁体験の重要性や今後の展開をご紹介します。

失禁体験装置とは

ーー現在の失禁体験装置の仕組みを教えていただけますか?

失禁体験装置は主に、腹部を圧迫する空気袋と、お湯が流れる水袋の2つで成り立っています。

スイッチを入れると、制御装置から空気とお湯が送り出されます。

空気で腹部を圧迫することで排尿を我慢している感覚を再現し、お湯を股間部から内股、足首へと流すことで尿の生暖かさと水が流れる感覚を提示することで、尿失禁の感覚を再現する仕組みです。


ーー今の失禁体験装置のこだわりは1番どこに詰まっていますか?

1番は、お湯を流す水袋ですね。

暖かさを再現するだけなら電熱線やヒーターを仕込めばいいのですが、尿失禁をした時の尿が染み渡る感覚や生暖かさをよりリアルに再現するために、あえてお湯を使っています。また水漏れが起こる可能性もあるので、とても細かく作っているところでもあります。

失禁体験装置の開発経緯

–そもそも、どうして失禁体験装置を開発しようと思ったのでしょう?

学部1年生の時にロボメカ工房というものづくりサークルに所属していて、そこで学園祭に向けてアイデア出しをしていたときに”おもらし”のキーワードが出たんです。装置が完成せず展示はできませんでしたが、ポスターをつくってコンセプトだけ発表しました。

当初は高齢者疑似体験のひとつとして考えて開発をしていましたが、来場者から「治療に使えるかも」「子どものオムツ離れのトレーニングにならないか」というフィードバックをいただきました。それを聞き「可能性がある」と思って、開発を続けていったのがきっかけでしたね。


ーー最初はサークル活動の一環ということもあり自費で開発をされていたそうですが、そこまでして開発をする面白さのようなものはどこにあったんでしょう?

どうして”おもらし”に着目したのかはうまく言語化できていません(笑)

僕は元々、人の感覚を再現する分野であるVR研究をしていました。そこでは人間の感覚、特に生理的な感覚の再現が非常に重要になってくるのですが、”おもらし”の感覚再現は「まだ誰もやっていなかった」というのが1番大きいと思います。

あとは小さい時から手を動かして物をつくるのが好きだったので、エンジニアリングが楽しかったというのもありますね。

子どもの頃は油絵や立体アートなどの美術をしていて、そこからロボットなどの科学的な分野にハマりました。大学生になりモノづくりサークルに入って本格的に技術を学びはじめ、それを活かせる場がようやくきたと思い楽しく活動しています。

 

失禁体験装置の改良

ーー装置の改良をするために、亀岡さん自身がリアル失禁体験をしているそうですね。

そうですね。「失禁したときの感覚を自分の体感として理解していないとより良い装置は作れない」と思い、家のお風呂場などで失禁しています。

自分の意識の上でやっているので本当の失禁ではないと思いますが、「どのように尿が染み渡っていくのか」「どのくらい冷えるのか」を服を着た状態で失禁してみて体感しています。

 

ーーUbdobeのイベント「SOCiAL FUNK!」で失禁テキーラをされていましたよね。テキーラを飲んだ方がよりリアルに感じるというのも亀岡さんの体験からなんですか?

これは僕の体験というより、展示会などでいろいろな人に体験してもらう中で気付いたことです。

事前に水を飲んでもらった方が尿意を意識してもらいやすくなり、体験としてよいということが経験的にわかっていますね。アルコールではなくても、ドリンクなら何でもいいと思います。

 

ーー改良を続けても、服を着て他人に見られてもいい状態での失禁体験というところは今のところ変わっていないですよね。こだわりがあるんですか?

そうですね。本当はズボンや下着の下に装着して体験してもらった方が、よりリアルな感覚を再現できます。

ですが今後、失禁体験装置は「介護体験や医療現場などで使用していければ」と考えていますので、他人に見られても良い状態で体験できる装置にすることが必要でした。

服の上からでも体験できることは逆にメリットになると思っています。

 

ーー確かに1人で失禁するのと、誰かに見られながら失禁するのとでは恥ずかしさなど違いますもんね。

失禁って、本来ならば「人に見られたらまずいこと」だと思うんですよね。

それをあえてみんなと一緒に楽しみながら体験したり、体験しているところをみて「恥ずかしさ」を共有することが、失禁に対する意識が変わるきっかけになるのではないかと考えています。

医療などまじめなことは、なかなか取っつきにくいと思うのですが、エンターテイメントの力を使ってそこに導線をつくってくことに価値があると思っています。

 

失禁体験者の感想

ーー実際に失禁体験をされた方の感想にはどのようなものがありましたか?

「気持ち悪かった」という人と「気持ちよかった」という人に二極化していますね。

「気持ち悪かった」という人は「本当に失禁しちゃった気がする」「失禁体験しているところを見られて恥ずかしい」という感想の人が多く、「気持ちよかった」という人は「暖かくなってお風呂に入ったような感覚」「そもそも失禁自体が気持ちいい」という感想の人が多いです。

温感は人間の感情を大きく揺らす要素ですので、股間部や内股が暖かくなる感覚を楽しんでいただいています。


失禁体験装置の実用的なアイデア

ーー先ほども介護や子どものおむつ離れなどのお話がありましたが、今のところ、失禁体験装置の実用的なアイデアとして何か想定しているものはありますか?

いくつかあります。まず介護教育の現場で使えるのではと考えています。

看護学校などでは、尿失禁をしてしまった人の気持ちを理解するために、オムツを履いたり実際にオムツに失禁をする研修があるそうです。

休日1日使ってトイレを我慢し失禁するらしいのですが、結構大変ですよね。できる人とできない人がいますし、学校としても「やらせるのはどうなんだ」という意見もあるらしいです。

そこで失禁体験装置を使用すれば、簡易的ではありますが尿失禁してしまった人の気持ちをみんなで共有できるのではと考えています。

それから今は在宅での介護も普及していますので、介護を専門としていないご家族の方に失禁体験をしてもらうことで、介護や失禁に対する理解が進んでほしいとも考えていますね。

もうひとつは医療的な面です。こちらでは「尿失禁をさせない」という方向と「排尿させる」という2つの方向があります。

まず「させない」方向でいえば、失禁体験装置を使って尿意を提示し、それを我慢するトレーニングに使えます。

それから特に年配の方は、筋肉や自律神経が衰えることで無意識に尿が漏れてしまいやすいんですよね。そういう時に「させる」方向にシフトして、トイレにいるタイミングで排尿し、それ以外ではしないというトレーニングができます。

排泄を正常に行えないということは、誰にでも起こりうる症状です。その一方でなかなか理解が進んでいないので、失禁に対する意識の改革にも繋がってほしいと思っています。

失禁体験をして、「実際に失禁をしたらズボンも下着も、靴も濡れちゃうし、これがもし外だったらどうしよう」「真剣に考えなくちゃいけないな」という危機感を持ってもらえるとうれしいです。

VR研究から見る失禁研究会の取り組み

亀岡さんはVR(バーチャルリアリティ)の研究もされています。爆発的に普及し、今や一般的になりつつあるVRですが、その可能性や今後の展開、またVR研究の中での失禁研究会の取り組みの重要性についてご紹介します。

VRとは
VRは「Virtual Reality」の略で、「人工現実感」や「仮想現実」と訳される。ここには「表面的には現実ではないが、本質的には現実」という意味が含まれ、VRによって「限りなく実体験に近い体験が得られる」ということを示している。

(参照元|エレコム)

ーー亀岡さんは触覚のVR研究をされているんですよね。

僕の専門は、触覚のVR研究です。ヘッドマウントディスプレイを使用しながら触覚提示をすることで、よりリアルにVR空間を提示する研究をしています。

(ヘッドマウントディスプレイ)

VRはヘッドマウントディスプレイを使用したものが有名ですが、そもそもVRは人間の感覚を再現するということです。

人間の感覚を再現するにはいろいろな研究が必要で、例えば「視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚」の五感がありますが、僕はその中の触覚を研究しているということになります。

触覚と一口に言っても「物を触る・握る・撫でる」など、いろいろな触り方がありますし、ほかにも「痛い・熱い・冷たい・ざらざらしている、さらさらしている」など、いろいろな皮膚の感覚があります。今の触覚研究では、その1つ1つをつくっていくことが重要になっているんです。

失禁体験はどちらかと言うと触覚より生理感覚の分野ですが、濡れる感覚や温かい感覚はもちろん触覚です。

 

ーー失禁体験装置にヘッドマウントディスプレイを使用する可能性はあるのでしょうか?

ずっと考えています。ただ、今は「またVRね」とある意味でVRが一般的になってきているんですよね。なので、VRの目新しさを取り入れるよりは失禁体験装置のデバイスの方のクオリティをあげていくことを優先しています。

僕が全部をつくるよりも、3Dシュミレーションやコンテンツをつくる技術の高い方々にVRコンテンツを作っていただき、最後に僕が作った装置と組み合わせた方が、よりよいものが作れると思っています。

VRの可能性

ーー亀岡さんは、VRにどのような可能性を感じていらっしゃいますか?

失禁体験装置は、尿意を促すために腹部を圧迫したり振動させたりといろいろな刺激を加えることで尿意を再現しますが、それは本当の尿意ではないんですよね。

そこはVRの強みで、トイレに行きたくなるようなシチュエーションを提示すれば、本当に「トイレ行きたい」と脳が錯覚する可能性があると思っています。

VRそのものの可能性としては、今後電脳空間(以下「VR空間」)やVRSNSがより発達していくと思います。

今、新型コロナウイルスの影響もあってZOOMなど遠隔でのコミュニケーションが一般的になっていますよね。

2012年くらいから一般向けのヘッドマウントディスプレイが先駆けとしてあり、2017年くらいからVR空間を使用した遠隔のコミュニケーションが普及していました。

現在ではVR空間でコミュニケーションをとって新しいものをつくったり、そもそもVR空間を作ることが普及しているんです。

今はユーザーレベルでのコミュニケーションですが、今後は例えば仕事やモノの売買、公共インフラの支払いなどをVR空間でするのが一般的になると思っています。

そうすると「VR空間はもはやVR空間ではなく、もう一つの現実のように進化していく」と僕は信じているんです。

VR空間がもう一つの現実になるためには、システム面でのインフラ整備をして経済活動、社会活動をVR空間で行えるようにしていくことが必要です。

それに加えて、VR空間で得られる感覚を肉体に正しく戻してあげることも必要な技術です。

それがないと「リアルじゃない」と感じてしまうので、世界中の研究者がその1個1個の感覚を埋めようと取り組んでいます。その中で、失禁研究会の取り組みも重要だと思っています。

 

ーーVRに馴染みのない私の感覚でいうとVRは非日常的なものですが、もっと生活の中に入ってくるんですね。

職業や住んでいる場所、立場などで変ってくると思います。

例えば、オフィスの本社は東京にあるけれど、地方からネットワーク越しにアクセスして仕事をしている人が増えていますよね。

これが継続していくと、VR技術で「遠隔にいるのに東京のオフィスにいる感覚で仕事をする」ことが進んでいくと思います。この場合、現実空間がベースとなってVR空間の人を認識しています。

その一方で、VR空間にベースを置きコミュニケーションをとるという方法もあります。なかなか複雑な構造をした概念ですが、よく言われるように体験してみたらわかると思います。

 

ーーVR空間によって選択肢が増えるんですね。

身体の都合で外出ができない方がライブに参加できるようになったり、そもそもVR空間でライブを開催することが流行っていますね。

みんなで「いっせーのーせ」でVR空間にシフトするというより、徐々にいろいろな方法が許容されていくと、いい社会になると思っています。

バーチャル学会2020開催

亀岡さんは、VR空間で学会を開催する「バーチャル学会」を主宰しています。2019年には稲見昌彦さんらが登壇しました!

今年度は発表の公募をしていますので「自分の研究をアカデミックな場で発表したい!」という想いがある方、ぜひ申し込んでみてください。

 

今後の展開や目標

ーー最後に、今後チャレンジしたい領域はありますか?

失禁研究会に関して言えば、失禁体験装置はまだ世に出ていないものですので、それを「サービスとして成り立たせてきたい」というのがまず一つです。そのために現在、失禁体験装置の量産・複製を進めています。

僕自身ビジネスに興味がありますので、今後サービスとして展開した場合の想定ユーザーに実際に使ってもらい、フィードバックをもらうことで持続可能な研究を行っていくことが目標ですね。

この業界に入っていくためには尿失禁だけではなく、便失禁もカバーする必要があります。便失禁の症状を抱えている方の数は尿失禁に比べて少ないですが症状としては深刻ですので、今後は便失禁も取り組んでいきたいですね。

それから僕は研究者なので実験をして得られたデータを学会に発表するのですが、あわよくば他の人が同じような装置を作ってくれれば、僕はそれでいいなと思っています。

最終的な目標として、失禁体験装置が世の中に普及し、いろいろな研究者が取り組む分野になるのが僕は1番うれしいです。

【求】失禁研究の仲間
失禁研究会は、亀岡さんもう一人の2人で活動しています。もし「興味あるよ!」という方がいらっしゃれば、ぜひこちらから声をかけてください。

(編集:佐藤奈摘|Twitter)

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