依存症回復施設のヒューマンアルバ、犯罪抑止の受け皿に|金井駿

依存症回復

ヒューマンアルバ代表取締役 共同代表
金井駿   かないしゅんTwitter
1993年生まれ。大学1年時、経営コンサルティング会社に勤務。その後、ITベンチャー企業に入社。営業、マーケティング、新規事業立ち上げに携わった後、同社の新卒採用を統括。横浜国立大学卒業後、刑務所・少年院出身者専門の就労支援会社に参画、専務取締役就任。
2017年3月に辞任後、「自分の家族のような、依存症で苦しむ人々をなくす」ことを決意し、株式会社ヒューマンアルバ設立、同社代表取締役社長に就任。現在は依存症にとどまらず、広く社会福祉事業を展開している。

『犯罪のない、皆が笑って生きられる社会を創る』

社会的課題をビジネスで解決するために立ち上がった、ヒューマンアルバ共同代表の金井駿さん。

誰もが犯罪をしなくていいように、「依存症更生」から取り組み始めた若手起業家です。

今回は、依存症という領域で事業を開始した経緯、ビジネスとして福祉を目指す理由について、お伺いしました。

生い立ち・経歴

–自己紹介をお願いできますか?

はい、金井駿と申します!

大学は横浜国立大学で、専攻は経営学でした。当時は、福祉とは関係のない分野を勉強していましたね。在学時には、IT系の会社でアルバイトしていて、その際も福祉とは違う領域で活動していました。

福祉の道に決めたのは、大学3年~4年生の時ですかね。面接に行くと人事の方に「将来の夢は何?」とか「人生を通してやり遂げたいことはある?」と聞かれる場合があると思うんですけど、自分は当時何もなかったんですね。その時は「金持ちになりたいな」くらいしかなくて(笑) 

そこで改めて「自分がやりたいこと」について考えてみたんです。随分時間はかかったんですけど、どうやら自分は家庭環境に大きな影響を受けているなと思って。そこから進む方向性が見えだしてきました。

僕は父親が3人いまして、2人目の父が逮捕されているんですね。強面でしたが最初は優しくて、けど途中からギャンブルにハマりだしてしまって。そうした自分の体験から、福祉の領域で仕事したいなと思うになりました。

ヒューマンアルバでは、「犯罪のない世界を創る」をミッションに掲げているんですけど、現在はそこに向けて進んでいる最中です。やるからにはゴールを掲げてやりたいなと、僕がそこで決めた最終地点が犯罪をなくすことでした。

「アルバ」内観(川崎市生田にある施設「アルバ」は旅館を改築した内装となっている。)

福祉×ビジネスの理由

–福祉に進んだのは、そういった経緯があったんですね。ちなみに「依存症」という領域もその時に決まったいたのでしょうか?

いや、最初はどちらかというと、更生保護に近い領域で働き始めました。刑務所専用の求人誌ってあるじゃないですか?

–知らなかったです。。

あっ、すみません。あるんです(笑)

それで、ヒューマンアルバを始める前は、その刑務所専用の求人誌の発行をスタートした会社で役員をしていました。大学卒業する直前から1年くらいでしょうか。

その後、得た経験を活かして独立し、ヒューマンアルバを立ち上げることになります。

実は僕の場合、何の事業をやるかよりも独立する方が先だったんですね。独立したあとに、福祉の中でも何をするか考えて、仲間と話し合っていく中で「依存症」で始めようとなったんです。

–お父様との経験が大きかったんですね。

はい、それもあります。

ただ、理由は2つあって、1つはビジネス的な視点で考えた時です。今、日本国内だけでも依存症者の方は数百万人の規模でいると言われています。つまり、マーケット的に大きいという理由がありました。やっぱり、そこはビジネスをやる上で考えましたね。

2つ目の理由は、今伊藤さんがおっしゃった僕の経験ですかね。「金井君、ギャンブル依存の子どもだよね?」とか、相談した方に言われて(笑)

出資して頂く際にも、なぜ自分がこの事業をするのか説明する機会があるんですよね。

「自分じゃなきゃいけない理由」とか「なぜ自分にお金を出すのか」とか、説明する時に「自分は死ぬまでこれやっていくんです。」と言えるものが依存症の領域だったんです。

ちなみに、依存症は一からの勉強になります(笑) やるって決めた瞬間から勉強し始めましたね。フィールドワークとか、イベントへの参加とか、当事者たちと一緒に過ごしてみたり、事業する上で必要なことは一通り経験しました。

ヒューマンアルバ施設(依存症施設「アルバ」では、個別プログラムと集団プログラムを提供。)

–今現在ヒューマンアルバとしては、どんな事業を展開いるのでしょうか?

大枠としては、社会福祉事業ですね。

具体的に言うと、依存症者のための生活訓練事業所の運営と、就労継続支援事業所B型の運営の2つを中心に行っています。

最初は前者である依存症回復施設のみ広げていたのですが、それだけじゃ回復支援という面で足りなかったんですね。なので、就労に進むためのステップとしてB型の事業所の運営もスタートしました。

また、依存症と他の特性を両方お持ちの方がいらっしゃるんですが、そういった方々の受け皿を作りたかったというのもあります。

依存症者の中には、発達障害の方が依存症になったり、依存症でうつを併発してしたりといったケースが珍しくないんです。将来的には犯罪をなくすというミッションを実現するために、更に領域を広げて事業ができたらと考えています!

–なぜヒューマンアルバはビジネスとして福祉をやっているのでしょうか?

気になるとこではありますよね。

実はビジネスとしてやるという気持ちは、大学生の時にはできあがっていました。

インターンとして所属していた会社にガイアックスがあるのですが、そこでは「社会への貢献意欲」「社会課題を解決する」っていう社長の意思をとても強く感じたんですね。

例えば、学校の裏掲示板で生徒が自殺してしまったという事件があった時に、その裏掲示板のパトロール事業をガイアックスがやっていたんです。

そこで、世の中の課題はビジネスとして解決できるんだっていうことを学んで。

また、ビジネスで取り組んだ際の規模感は全然違うとも思っています。僕は10万人100万人が満たされるのではなくて、77億人みんなが満たされる世界が創りたいんですね。そのためにはビジネスでやってこそ意義があるんじゃないかなって考えています。

もちろん、僕自身の答えが絶対だとは思っていませんが、最初のスタート段階で数千万円以上の資金を調達できたことを考えると、やってよかったって思いますね。

–僕も以前ヒューマンアルバに所属していたので、応援しています!

パンフレット(ヒューマンアルバでは、依存症からの回復だけでなくその後の社会復帰まで支援。)

依存症者の見え方、社会の見方

–金井さんは実際に働く中で、依存症者の方に対する見方は変わりましたか?

めちゃくちゃ変わりました(笑)

依存症者の世間の見え方と実態という点でいうと、僕自身見え方がすごく変わりました。ヒューマンアルバを立ち上げる前は、「覚醒剤」というと凶悪なモンスターのイメージがありました。

ただ沖縄で、3週間くらい覚醒剤の施設にボランティアとして参加していた時に、薬物依存当事者と二段ベッドで一緒に過ごしたのですが、全然普通でしたね。バカな話もするし、根は真面目だし。

普通の人とは違うと感じる面はありましたが、それは誰しも同じですし。一部で報道されているような「イメージ」とは違うよ、という印象を受けました。今自分がヒューマンアルバの施設内で当事者と接しているときも、その印象は変わりませんね。

人としての優しさもあるけど、ちょっと不器用なところがあってとか、一言でいうと「愛されるべき者たちだよな」っていう感じですね。実際にやってみて。

–ヒューマンアルバとして、これからどのように進んでいきたいですか?

そうですね。自分が働けるのが、あと50年とか60年とかだと思うんですけど、生きているうちに「犯罪」という概念をなくしたいですね。けど正直、それを実現させていくためのピースがまだ見つかりきっていません。まだ手探り段階です。

ですが、5年~10年でやらなくてはいけないことは明確で、事業を展開している地域限定でまず年間犯罪発生率0%を達成したいですね!そうした成功例が1つでもあると、社会に与え得るインパクトは非常に大きなものになると思っています。

そのためにやることは膨大で、出所された方をサポートする施設が必要だし、今の事業の継続で依存症施設も作らなくちゃいけないし、依存症への見方を変えていく啓蒙活動も大切です。

僕は、依存症を気軽に認められる社会になれば、当事者の回復が迅速に進むと考えています。なんとか犯罪という行為までいかずに、回復治療のフローに繋がるような社会を実現したいです。

ビジネスと福祉
(写真撮影用にMacを出して頂きました!)

–「犯罪をなくす」って途方もない目標だと思います。金井さんの「犯罪」に対する考え方を教えてください。

「犯罪」って純粋な損得感情で決まると思うんですよね。「その人にとって合理的だったら発生する」みたいな。

多分僕たちって、恐らくですけど、手錠をかけられる機会ってないじゃないですか?でも、実際に手錠をかけられている人がいる。今日もある刑務所に出所した方のお迎えに行ったのですが、その方は神社の賽銭箱ごと盗んで捕まったんですね。

「なんだろう、この差は」みたいな。

いろんな意見があると思いますが、僕としては「認知の歪み」が関係していると考えています。同じものを見ていても、同じ捉え方をしていない、そうした認知の歪みが犯罪に結びつくと思うんです。

例えば、僕たちが親とかもいなくて暴漢に襲われて、必要な生活費を盗られたとするじゃないですか。自分なら、警察などの手を借りると思うんですが、今日迎えに行った出所者の方はそれがないんですね。それで盗んでしまったんです。

そうした認知の歪みを改善して、その人が犯罪を合理的だと思わないような仕組みを作っていきたいと思っています。もちろんその1つとしてヒューマンアルバが存在するように。

口でいうのは、簡単ですけどね(笑)

ただ、ヒューマンアルバがあったからこの人犯罪しなくて済んだなっていう人は、現在でもたくさんいらっしゃるので。あきらめたくはないですね。

–最後に社会に向けて、頼る先が少ない方に向けてメッセージをお願いします。

はい、了解です!

まずは、ご本人様に向けて。実は僕自身、パニック障害でして、偉そうに言うのは申し訳ないのですが、思い切って開示して欲しいなって思います。

「お酒やめられないんだ」とか「参考書持つと手が震えるんだ」とか、「手汗でびっしょりで呼吸困難になっちゃう」とか。

–話がすごく具体的ですね。

自分の体験だからです(笑)

僕、明治大学の試験中に倒れちゃって試験受けられなかったんですよ。センター試験は、受けられたので、大学入試は通過できたんですけどね。

もちろん、自分の症状や特性を話しても理解してもらえないことはあると思います。そしたら最低でも、勇気を持って10人に声をかけて欲しいです。恐らく10人に話せば1人くらい引っかかると思います。

そうだよねって分かってくれる。分かってくれなくても受け入れてくれるかと。その中には「こうしたらどう?」って提案してくれる人までいると思いますよ。

自分は生い立ち的に「誰も理解してくれない」と思った経験があるんですが、結構そんなことないなと。特に都会とか出てくると、自分みたいな人いるなみたいな(笑)

そこで、「自分の特別さ」みたいな優越感はなくなってしまって残念ではあるんですけど、気持ちはラクになります。なので、「自己開示」「最低でも10人に」をキーワードに頑張って欲しいです。

–参考になります!

あと、これは家族に向けてですが、困っている当事者を否定しないで欲しいです。分からないことだらけで不安もあるかと思いますが、まずは「そうなんだね、辛いんだね」って言って欲しい。

その上で、もし可能なら次のアクションを一緒に考えて欲しいです。今の時代、検索したら色々出てくるじゃないですか。それだけでも大分救われます。

依存症の領域の話でいうと、再び飲酒してしまった人に「今までやめられたのになんでまた飲んだの?」って言ったことがきっかけで、自ら命を絶ったケースがありまして。

なので、とりあえず嘘でもなんでもいいから受け入れて欲しいです。

事業におけるやりがい

毎日ではないんですけど、ヒューマンアルバをやってて良かったなっていう思うことが不定期に起こるんです。利用者の方に感謝されたりとか、当事者が回復されたりとか。

福祉って結構「見えやすい」のではないでしょうか。

対人業務なので、目に見えて報われる瞬間って割とあるんですよね。まあ目に見えて腹の立つこともあるんですけど(笑)

こんな感じですかね!

ヒューマンアルバ金井駿

【編集後記】
今回インタビューしたのは、ヒューマンアルバ代表取締役共同代表である金井駿さん。「犯罪のない世界を創る」というミッションのため、ご自身の事業に取り組まれながら、依存症や障害、犯罪者への理解を広げる講演も行われています。お話にもあった、「損得勘定」という視点で犯罪の原因を考えてみると、当事者たちへの印象が少し変わるかもしれません。

(編集:伊藤弘紀|Twitter)

関連情報:
「アルバ」施設紹介PDF

ヒューマンアルバ公式Twitter

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