WHILL(ウィル)ユーザー兼インターン
富吉まこ とみよしまこ (Twitter)
石川県出身。
関西外国語大学 外国語学部 英米語学科卒。Co-Co Lifeタレント部所属
日本航空株式会社で客室乗務員を務めたあと、大阪外語専門学校にて非常勤講師に。去年7月に筋ジストロフィーと診断された後、WHILLと出会いユーザーになった。WHILL株式会社のインターンとして働きながら、ミュージカル女優、声優、歌手、モデルとマルチに活動している。
「あれって、もしかして車椅子?」
街中を歩いている時、ふと足を止め見入ってしまった経験はありますか。
今回取材したのは、WHILLインターンでご自身もWHILLユーザーである富吉まこさん。
WHILLは、これまでの車椅子のイメージとは全くことなる新しいパーソナルモビリティになります。
あたかも、意識することなく誰もが使える「インフラ」のように。
この記事を通して、従来の車椅子のイメージ・概念が180度変わるかもしれません。
目次
新しい電動車椅子WHILLとは
WHILLという会社について
–まず、WHILL株式会社について教えてください。
私たちは「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに掲げる会社です。
2010年、きっかけはある車椅子ユーザーの方の言葉でした。
メンバーが出会ったその車椅子ユーザーの方は、行動力があり社交的な人でした。しかし、車椅子に乗っていることで、自分がどういう人間かに関わらず、「障害があり、助けが必要な人」という視線で見られてしまうこと、それが外出を阻むと語ってくれました。
(出典元|WHILL HISTORY)
車椅子ユーザーの方の困りごとと言うと、「車椅子に乗って出かけたくない」という精神的なバリアと、「段差や坂道など行けない場所が多い」といった物理的なバリアが挙げられます。私たちは、そういった車椅子に対する印象を変えたいという気持ちで活動しています。
例えば、私たちの多くが普段かけている「めがね」は最初、視力矯正の器具として始まりましたが、今ではファッションアイテムの1つとして、認識されていますよね。
「伊達メガネ」という言葉もありますし。さらにこれからはカメラやセンサーを搭載したウェアラブル端末としての需要も期待されています。私たちは、車椅子でもこうしたかたちを目指しているんです。
最初は20代の若者3人で小さなお部屋からスタートした事業も、現在では日本だけでなくグローバルに活動しております。
–すごいですね。
ありがとうございます。
WHILLという会社は2つの事業をメインに行っておりまして、まず1つ目がパーソナルモビリティ事業です。
WHILLには現在WHILL Model AとWHILL Model Cという2つのモデルが存在します。Aは一番初めのAという意味で、Cはコンパクトやキャリー、コンフォータブルという意味があります。ちなみにBはありません(笑)
今回、私が乗ってきたものはModel Cになりまして、Model Aより軽くお値段もお安くなっています。
・5㎝の段差を越えられる
・小回り性能
・3つに分解できる
・操作が簡単
・軽量バッテリー
・カゴ搭載(買い物対応)
・スマートフォンによる操作が可能
WHILLは「車椅子」なので介護用品店で売っているのかなと思われるかもしれません。
もちろん、介護系の店舗でもお取り扱い頂いていますが、実は自動車ディーラーさまや、自動車会社ですとか眼鏡のパリミキさん、自転車屋さんでも販売して頂いており、より皆さまに身近に感じてもらえるようになっています。
(今回の取材では資料を提供頂きました。)
そして、もう1つの事業ですが、こちらはMaaS事業と呼ばれるものになります。MaaSとは、Mobility as a Serviceの略で、テクノロジーと従来型の交通・移動手段を統合して、新しい交通を提供しようという動きです。
長距離はもちろん、普段の短い距離の移動も私たちのサービスを利用していただくことで、もっと便利にできたらと思っています。
おしゃれな電動車椅子WHILL
–ありがとうございます!次に電動車椅子WHILLについてご紹介おねがいします。
はい。WHILLは一言でいいますと、「すべての人の移動を楽しくスマートにする乗り物」です。魅力としては、デザインとテクノロジーが融合されているところですね。
なかでもデザインの力は「車椅子に乗ることに抵抗がある」方々の気持ちのバリアを外すことができると思っています。ファッションとして自分の一部になるような感覚でお使い頂けるように開発されました。
私が今日乗ってきたModel CのWHILLはアームの部分の着せ替えができるんです。例えば、「今日はゴールドな気分♪」だったらゴールドに変えたり、ブルーの服装に合わせてブルーに着せ替えたり、本当にオシャレの一部ですね。
ちなみにModel Aは2015年に、Model Cは2017年に、グッドデザイン賞を頂きました。グッドデザイン賞はただ斬新でかっこいいと受賞できるものではなく、デザインを通して社会に何かポジティブな影響を与えていると評価いただけた際に顕彰されるそうなので、ユーザーとしても本当に嬉しく思います。
テクノロジーの部分に関しても、操作が簡単であったり小回りがきいたりと沢山良いところが挙げられますが、例えば、就寝の際にWHILLがベッドまで移動して、あとはWHILLをスマホで遠隔操作して部屋の入り口付近に待機させておくといったこともできるので、介助の人のサポートも少なくて済むんです。
WHILLのバッテリーはとても強くて、5時間充電すると16キロ進められるようになるので、移動に困ることも基本的にはないですね。もちろん、操作はジョイスティックなので力は必要ありません。また、自動車のようにアクセルとブレーキを間違えるようなことはなく、ジョイスティックを倒すとアクセル、離すとブレーキなので何かと安心だと思いますよ。
WHILLの課題や改善点について
–たくさん良いお話が聞けました!逆にWHILLで改善したい部分などありますか。
価格帯は気になるとこではないでしょうか。WHILLのお値段ですが、Model Aは99.5万円、Model Cは45万円(いずれも非課税)です。
もしかしたら高く感じられる方もいるかもしれませんが、補装具費支給制度を利用される場合ですと、場合によっては自治体から補助を頂いての購入も可能です。また、介護保険が適用される方ですと、月々約2700円でレンタルできます。
WHILLの利用シーン、目指す社会
今、日本では65歳以上のうち1000万人以上が500mを超えて歩くことに困難を抱えています。病気ではないけれど、足腰が弱いという方もいるし、障害者ではないけれど歩くのが大変という方がいるんですね。
免許を返納すると近くへのお出かけも困難になってしまう方も高齢者の場合は少なくないので、WHILLを通して移動する喜びを提供できればと思っています。
またWHILLは、羽田空港などでの自動運転走行の実証実験を行っていますので、これから空港にあるセキュリティゲートから搭乗口までの距離をお客様を乗せてお運びする日も近いと思います。
WHILLユーザー富吉まこさん
(横のアームは動かすことが可能。席の移動も簡単に行える。)
WHILLの利用を始めた理由
–ここから富吉さんについてもお話伺ってもよろしいでしょうか。
はい。これまでWHILL株式会社のメンバーとしてお話しさせて頂きましたが、私自身WHILLに入社する前からWHILLユーザーでして、きっかけとしては、去年の7月頃に「筋ジストロフィー」という病気を診断されたんですね。
以前はとても元気だったんですけど、3~4年前からちょっと調子が悪いなと思い始めまして。2年ぐらい前から病院に行き始めて、大学病院にも5件ぐらい訪れたんですけども、なかなか病気の名前がわからなくて。
去年手術の検査をした時にやっとわかりまして、それが筋ジストロフィーという病気だったんです。最初ご説明頂いた時はすごくショックでした。
筋ジストロフィーとは
身体の筋肉が壊れやすく、再生されにくいという症状をもつ、たくさんの疾患の総称。平成27年7月から、指定難病に。日本の筋ジストロフィーの患者数は、約25,400人(推計)とされている。(出典元|一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会)
筋ジストロフィーは今のところ治療法がなく、少しずつ進行していく病気なので、目の前が真っ暗になりましたね。ずっと調子が悪かったので、病気だとは思っていたんですが、病名を聞くまでは、治療すればそのうち治るだろうと思っていました。
それが治らないとわかり、「車椅子生活になって寝たきりになる」と言われたので、私はもう終わりなんだと考えてしまいましたね。
私は元々20代の頃から、航空会社の客室乗務員をやっていたんです。その後は、専門学校の講師ですとか、ラジオのパーソナリティー、ラジオドラマのキャスト、モデル、ミュージカル女優というかたちで色々なことに取り組んでいました。
それがこれからできるなくなると思って。それでも「車椅子に乗っていても何かできるんじゃないか」と思って、芸能事務所のオーディションを受けたんですよ。それがCo-Co Lifeという事務所でした。
Co-Co Lifeは、難病と障害者が所属している事務所で、合格できてすごく嬉しく思いました。ただ当時は私、杖を使って歩いていたんです。
もちろん杖を使いながらも活動はできるのですが、「このヨロヨロとした歩き方じゃダメだ」と心の中で思っていて。杖ではなく、女優とかモデルが使っていても「カッコイイ車椅子ないかしら」と探していたらWHILLに出会ったんです。
それから詳しくホームページを見ていくと、私が感じていた気持ちを代弁してくれているように感じて。
–そのような経緯があったんですね。
そうなんです。そのあとは、家族と相談してWHILLを購入して、WHILLのTwitterアカウントもフォローしました。
そうすると、タイムラインにWHILLの情報が流れて来るんですけど、「インターン募集」という情報が流れてきて。その時に、「えー、私やってみたいかも!!」と思ったんです。
–え??
(富吉さんの行動力に驚きました…)
応募したら、あっという間に採用してもらえて、現在に至るんですけども(笑)
私は、WHILLのおかげで外に出られるようになったし、WHILLのおかげでお仕事も見つかって。最初は筋ジストロフィーと診断されたらもう二度とお仕事ができないと考えていました。それが今はオフィスでお仕事したり、自宅でリモート参加したり、こうやってインタビューも頂いて。
WHILLと出会ったことで前向きな気持ちになれたんです。WHILLが私に「行動する力」をくれたんです。
WHILLの利用前後での心境の変化
WHILLに乗り始めたことで、まだまだ私にも色々なことができるんだと感じています。今はミュージカル女優としてWHILLと一緒に出演すること、WHILLインターンとして同じように病気や障害をお持ちの方に、家に引きこもりがちな方にこの電動車椅子を知っていただくこと、2つが自分の目標になっています。
WHILLに乗っていると私自身をカッコイイと思わせてくれるんですよ。駅で「これテレビで見ました!」とか「簡単に動くんですね!」とお声掛け頂くことがたくさんあって、すごく楽しいですね。
WHILLに乗ると、すごくワクワクしますよ。まずは一度試乗してみてください!
WHILLを通して実現したい未来
WHILLを通して移動はどのようなものになるのか
「健常者」と「障害者」という言葉がありますよね。実は私、小学校から大学まで障害を持った方と接する機会がほとんどなかったんです。普段の生活でお話しする機会がなかったんですよ。
学校の授業の中で施設等を訪問して歌を歌ったり、お手伝いしたりすることはありましたけど、それはわざわざ「こちら」から「そちら」に行く経験だったんです。でも、障害者と健常者でぷっつり分かれているのはおかしい気がしませんか。実際はもっとグラデーションがあるんじゃないでしょうか。
何か障害と呼ばれるものを持っていても、明るく元気に生活されている方はたくさんいらっしゃいますし、健常者と呼ばれている方でも気持ちが沈んでしまうことがありますよね。
ですから、社会そのものがもっと混ざったら良いと思っています。学校も私の好きなミュージカルも、障害者と健常者とで分けられてしまうのではなく、色々な方が活躍している社会になったら良いのではないでしょうか。
私は移動についても同じ考えを持っています。歩くのがしんどくない人も、ちょっとしんどい人も、結構しんどい人も、同じように自由に移動できるような社会になったら、素敵だと思っています。
今、WHILLという会社でインターンをしているなかで、そのような社会の実現に自分も貢献できたらと考えています。
(フットサポートの上に立っても転倒しない)
社会に向けてのメッセージ
–それでは最後に今この記事を読んで頂いている読者の方へメッセージをお願いします。
正直に言うと、急に難病患者になったので、いろいろと考えることはあったんですね。私自身まだまだ理解しきれていない部分もあるんですけど、それでも同じ境遇の人、あるいは違う境遇の人も理解していこうという気持ちになりました。
社会の皆さんにもまず多様な人がいること知って頂きたいです。そして、そのうえで「もしかしたら自分にも何かできるかも」と思ったら行動して頂けると嬉しいです。
車椅子の人にとって便利な道路や通路は、ベビーカーにとっても便利なんです。ママさんやパパさんがラクに子育てや移動ができたらいいなと思いますので、そこが意識されたら素敵だと思います。
障害のあるなしに関わらず、便利なものを利用して、社会と関わって充実した毎日を送って頂きたいと思います。
取材協力:WHILL株式会社
広報部:富吉まこ、浜田佳歩
【編集後記】
執筆者である私がWHILLと出逢ったのは、去年の3月になります。青山学院大学のキャンパスを颯爽と走る一台の乗り物が目に入り、気づくと興味深々で近づいていました。
その時に声を掛けたWHILLユーザーの方が、嬉しそうにキャンパス内を移動していたのを見て、僕も一緒に嬉しくなったのを覚えています(笑)
WHILLのミッションは「すべての人の移動を楽しくスマートにする」ことです。そこに、障害者か健常者の区別はありません。WHILLがどのように社会を変えていくのか、今からワクワクしています。
(編集:伊藤弘紀|Twitter)