【東ちづるインタビュー】「#福祉現場にもマスクを」プロジェクトの目的と福祉現場の実情

女優|一般社団法人Get in touch 代表
東ちづる 
あずまちづる(Twitter)
会社員を経て芸能界へ。ドラマから情報番組のコメンテーター、司会、講演、出版など幅広く活躍。プライベートでは骨髄バンクやドイツ平和村、障がい者アート等のボランティアを25年以上続けている。2012年10月、アートや音楽、映像、舞台等を通じて、誰も排除しない、誰もが自分らしく生きられる“まぜこぜの社会”を目指す、一般社団法人「Get in touch」を設立。
自身が企画・インタビュー・プロデュースの記録映画「私はワタシ~over the rainbow~」が順次上映。著書に、母娘で受けたカウンセリングの実録と共に綴った『〈私〉はなぜカウンセリングを受けたのか~「いい人、やめた!」母と娘の挑戦』や、いのち・人生・生活・世間を考えるメッセージ満載の書き下ろしエッセイ『らいふ』など多数。

新型コロナウイルスの感染が拡大し、深刻なマスク不足が叫ばれている。医療現場や保育園などからSOSの声が上がる中で、なかなか声を上げられない現場があることを忘れてはならない。福祉現場だ。

福祉現場では食事や排泄、吸痰、歯磨きの介助など、密接したケアが必要だ。そのため濃厚接触を避けることが難しく、感染リスクが高い。実際、福祉施設でのクラスターが相次いで報告されているが、福祉現場は「医療現場の方が優先だから」と遠慮し、その実情はあまり知られていない。

2020年4月22日「#福祉現場にもマスクを」プロジェクトが始動した。仕掛け人は誰も排除しない”まぜこぜの社会”を目指す一般社団法人Get in touchのほか、一般社団法人障害攻略課NPO法人D-SHiPS32株式会社ヘラルボニーの4団体だ。

「福祉崩壊」を防ぐこのプロジェクトでは、1枚でも多くのマスクを福祉現場に届けるため、マスクや支援金の寄付、プロジェクトの拡散を呼び掛けている。2020年5月6日現在、44,420枚以上のマスクが福祉現場に届けられた。

今回は一般社団法人Get in touchの代表を務める東ちづるさんに、福祉現場の実情についてお伺いした。

#福祉現場にもマスクを

東さんが代表を務める一般社団法人Get in touchは「#福祉現場にもマスクを」が始動する前の4月上旬から、障害者施設などへマスクの寄付をはじめていた。アート活動を行う福祉施設を周ったり、企業など外とのつながりが多いGet in touchは、現場からの声がいち早く届きやすい環境だった。

「企業さんの方から『マスクがあるんだけど、どう使ったらいいのかわからない』という相談がありました。その時点で福祉現場の悲鳴を聞いていたので、寄付する先は福祉現場だと思いました。」

当時、医療現場やホームレスの方にマスクを寄付するサイトは立ち上がっていた。しかし福祉現場で起きている問題は見えにくく、後回しにされており、歯がゆさを感じていたという。

また、たくさんの支援団体・福祉団体があるのにつながっていないことを「もったいない」と思っていたところ、一般社団法人障害攻略課の代表、澤田智洋さんから連絡があり、東さんは「#福祉現場にもマスクを」に参加することになる。

このプロジェクトは企画から1週間で形にし、約40時間後にオンライン記者会見を開いている。驚きのスピード感だ。福祉現場の実情を知っている4団体だからこそ「一刻も早く福祉現場にマスクを届けなくては」という思いがあったのだろう。このスピード感を、東さんは「走行しながらマシンを組み立てる」ようだったと語る。

「溺れている人たちがいたら、浮き輪を投げるのか、手を差し伸べるのか、人を呼ぶのか、いろいろな方法があるわけですよね。それを『どれにする?』と話し合っている時間はないんですよ。」

(「#福祉現場にもマスクを」合同説明会はGet in touchのYouTubeチャンネルで公開されている)

福祉現場からのSOS

プロジェクトが始動してから2週間が経過し、福祉現場からはたくさんのSOSが届いている。

「誰かが感染すると、施設を閉めなくてはいけない。施設が崩壊してしまったら、ウチの利用者さんたちはどうなるのだろう。」
「通勤で電車に乗るのも不安だし、現場に行くと利用者さんとの距離が近くて不安に思ってしまう。そんな自分が嫌だ。」

東さんは「ものすごいストレスですよね」と言う。精神的な不安に「マスクがない、防護服がない、フェイスカバーがない」という現状が重なるのだ。

利用者が自宅に帰ることができず、職員の勤務時間が大幅に増えている入所施設も多い。さらに、急に変わったスケジュールに混乱し、利用者の自傷行為や他害行為も増えているのが実情だ。

 

我慢することに慣れた福祉現場

「#福祉現場にもマスクを」は①寄付のお願い ②マスク寄付のお願い ③拡散のお願い の3つのお願いを掲げている。東さんは「拡散」がキーだと語る。

「このプロジェクトは、マスクを届ける役割ももちろんありますが、福祉現場の方たちに『孤立していませんよ』『心配している人たちがいますよ』『忘れられていませんよ』という気持ちを届ける役割もあります。」 

福祉現場は孤立しがちだ。自分の地域に施設があることや、その施設でなにをしているのかを知らない人も多いだろう。

「今回でよくわかったのですが、福祉現場の方は、我慢することと諦めることに慣れてしまっているんですね。」

Get in touchでマスクの寄付を始めた際に「ウチは小さな規模だから、医療現場やもっと大きな施設を優先してあげてください」と遠慮する声があったという。しかし、実情を聞いてみると、その施設は使い捨てマスクを手洗いしながら使いまわしていたのだ。マスクを送ると、その施設の方は「助かりました、ありがとうございました」と電話の向こうで泣いていたという。

福祉現場の方からは「足りないって言ってもいいんですか?」という声が多いそうだ。「迷惑をかけてはいけない」と思っているのだろう。分断されがちな福祉現場では、社会へSOSを出すという選択肢が頭をよぎることも少ない。

そこでこのプロジェクトでは、福祉施設が自らSOSを出せる画像素材を提供している。施設名や必要な支援などを記入しSNSやホームページなどに使用することができる。


素材ダウンロード

 

孤立する福祉施設

「拡散」に関して、福祉現場から声が上がりにくいいことに加えてもう一つ課題がある。福祉現場のSOSが、医療現場でのSOSに比べてSNSで拡散されにくい傾向にあることだ。この現象に対する東さんの見解を伺った。

「Get in touchで福祉施設を周っている際に話しかけられて『近くの福祉施設にお邪魔してるんですよ』と伝えると『ここって福祉施設あります?』とおっしゃるんです。タクシーの運転手さんも、建物は知ってるけど、そこが福祉施設だとはご存じないんですよ。地域の人と施設のつながりが薄いんです。」

「医療は自分がお世話になっているところだけれども、福祉施設は家族や知り合いが入所していないと距離があるんですね。だから自分事に捉えられなくて、拡散されにくいのかもしれません。」

本来であれば地域の方や地域の企業が、福祉施設にマスクを届けるのが1番早いはずなのだが、このつながりが薄い。さらに言えば、福祉施設同士のつながりも非常に薄く、同じ法人の中の別の施設でのつながりが薄いことも珍しくない。

「地域の人たちに、自分たちのご近所に施設があること、そこで働いている人がいること、通所・入所している人たちがいて、一緒に生きているんだということを知ってもらいたいです。施設同士では『マスク届いたよ。おたくも申請すれば?』みたいな会話ができて、つながっていくといいなと思っています。」

 

福祉は誤解されている

「コロナというウイルスは、人と人を離します。でもそれはあくまで物理的な距離、フィジカルディスタンスなんですよね。なので実はソーシャルディスタンスではないんです。物理的には近づけないけれども、ソーシャル的につながらなければ乗り越えられない世の中なんですよ、今は。ワクチンや治療はもちろんだけれど、人と人、人と地域がつながらなければいけないときなんです。そこで福祉は絶対に取りこぼされてはいけない。」

福祉には「しあわせ」や「ゆたかさ」という意味がある。本来ならば福祉は「あらゆる人がしあわせに生きるため」にあるのだが、東さんは福祉を誤解している人が多いという。

やまゆり園の事件のとき『社会に役立たない人は必要ない』という被告人の言葉があって、その言葉に対して『わからないでもない』という人たちがいたんですよね。そこからわかるのは『福祉=社会に役立たない人のためのもの』という誤解があることです。『社会に役立つ・役立たない』で人の存在価値を測ろうとする考え方。そういう考え方の種を私たちはいつの間にか植え付けられてしまっているんですよね。」

東さんもまぎれもなく、その種を植え付けられた1人だった。「人に迷惑をかけてはいけない」「社会に役立つ人になりなさい」と言われ育てられてきたという。きっと、植え付けられた種の芽を出すのか出さないのかは、その人の生き方や環境によるのだろう。

新型コロナウイルスによって、福祉現場の孤立が浮き彫りになった。このプロジェクトを通じて、福祉現場がつながりを持ち、より多くの人に福祉現場の実情を知ってもらうことで、福祉の誤解が解かれるきっかけになることを期待したい。

 

相模原障害者施設殺傷事件(通称:やまゆり園事件)
2016年7月に、神奈川県相模原市にあった知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」にて発生した殺人事件。

元施設職員の男が施設に侵入し、所持していた刃物で入所者19人を刺殺。入所者・職員の計26人に重軽傷を負わせた。
事件発生当時、戦後最悪の大量殺人事件として衝撃を与えた。

広がる支えあいの輪

2020年5月31日まで緊急事態宣言が延期され、深刻なマスク不足は長期戦になることが予想される。東さんはこのプロジェクトが必要なくなり、解散することが目標だと語る。

「最初から中長期的に見ていたので、クラウドファンディングの期間も130日間と長いんです。『ゆっくりしすぎじゃないか』という批判もいただきましたが、瞬間的な支援では、またすぐにマスクが不足してしまいます。それから、マスクを届けることプラス福祉施設を自分事として考えてもらう、そのきっかけにこのプロジェクトをしていきたいです。」

マスク不足に緊急の対応をするだけではなく、つながりを作っていく。福祉施設の存在を知ってもらい、自分事として考えてもらうのは、重要かつとても難しい問題だと言える。しかし、支えあいの輪は着実に広がっているようだ。

「子どもがお金を集めた」という寄付や、企業からマスクの寄付があり、その寄付のおかげで福祉現場にマスクが届く。福祉現場からは「本当に届けてもらえるとは思っていなかった」「こんなにスピーディーに届けていただけるとは」などたくさんの感謝の声が届き、東さんはその声が励みになって、頑張ろうと思えているという。

また、55枚のマスクを購入すると、そのうち5枚のマスクが福祉現場におすそわけされる「おすそわけしマスク」も発足した。5月11日より先行予約受付される約100万枚の「おすそわけしマスク」で、福祉現場に約10万枚のマスクを寄付することが可能になる。

感染リスクが高い関東近郊への配布からはじめた「#福祉現場にもマスクを」だが、5月7日から全国への配布を開始している。実は全国への配布を始める前から、関東以外の各地からメールが届いていて、マスクを送っていたという。全国への配布が開始されれば「関東近郊ではないから」と我慢をしていた人たちからよりたくさんのSOSが届くだろう。

SOSを出すのは、決して悪いことでも迷惑でもない。この異例の状況だからこそ、SOSを出し合い、支えあい、つながっていくことが求められている。

(編集:佐藤 奈摘

1 COMMENT

関広江

おすそわけマス購入します。
長野県東御市のちいさがた福祉会さんらいずホール、就労Bで支援員をしています。
いまだに就労用のマスクが入ってきません。職員は自分で用意していますが、利用者さんは色々な事情でなかなか自分で用意は難しいです。きっとやまほどある施設ですが、少しでも助けていただければと思います。

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